第217話 久しぶりの婚約者
ワーム討伐を終えて、レスト達は王都に帰還することになった。
第二王子であるアンドリュー・アイウッドの許可はもらっている。
働かせすぎたと謝罪され、必ず相応の褒美を出すと約束してくれた。
「ようやく、王都のタウンハウスに戻れるわね。短い間だったけど、家が懐かしいわ」
「開拓村のコテージで暮らすのも楽しかったですよ。狭いお家で距離も近かったですからね」
もちろん、帰宅には婚約者であるヴィオラとプリムラも一緒だった。
三人は同じ馬車に乗り、断続的な揺れに身を任せて王都に向かっている。
その馬車はアンドリューが労いの意味を込めて、用意してくれたものだった。
スプリングが入った馬車は座席も柔らかく、乗り心地は悪くない。
「それにしても……この三人になるのは久しぶりな気がするわね」
ヴィオラがしみじみと言う。
馬車の中にいるのは三人だけである。ウルラとは平原の東側で、ユーリとは西側で別れている。
馬車に乗る際、ユーリも一緒にどうかと訊ねたのだが……珍しく、断られてしまった。
『ちょっと用事があって、行く場所があるからね。今日のところはお別れにしよう。また、近いうちにきっと……』
用事が何かは聞かなかったが……不思議と、いつものユーリとは雰囲気が異なる気がした。
物憂げというか、儚げというか、大人びているというか……無邪気な元気娘のユーリらしからぬ雰囲気だった。
(まあ、子供っぽいって言っても同い年だからな……身体つきなんて、むしろムチャクチャ大人で……)
「レスト?」
「レスト様?」
「ヒエッ……」
テントで同衾した際に引っ付かれた時の感触を思い出していると、タイミング良くヴィオラとプリムラに声をかけられた。
驚いて、レストは思わず肩を跳ねさせてしまう。
「どうしたのよ、そんなに驚いたりして?」
「何かあったんですか?」
「い、いや……何でもない。そういえば、平原の東側で……」
後ろめたい人間は饒舌になるというが、レストは聞かれてもいないのに平原の東側であった出来事について話し出した。
色々と……主に夜の出来事をぼかして話すと、二人は驚いたような顔になる。
「エルダー・ワームって……すごいわね! そんなに大きな魔物を倒したの!?」
「賢人議会のレオナルド・ガスコイン……まさか、本当に会ったんですか!?」
山のように大きなワームと、賢人議会の議長を勤めている人物。
どちらも、驚きの内容である。
天然記念物よりも珍しい物に一晩で二つも遭遇するなんて、本当に運が良いのか悪いのか。
「何百年も生きているであろう古代のワーム……おそらく、損傷された死骸でも白金貨百枚以上にはなるんじゃない?」
「白金貨百枚……」
白金貨一枚が一千万円。
百枚ということは、つまり十億円ということになる。
一般人であれば生涯見ることのできない金額のはずなのだが……何故だろう。少々、物足りない気がしてしまう。
「サブノックの報酬と比べると、かなり少ないな……本当に感覚がマヒしている……」
サブノックを討伐した報酬。
ローデル・アイウッドの遺産。
幾度も大金が転がり込んできたせいで、金銭感覚がバグッている。
「白金貨十枚あれば、王都の一等地でお屋敷が建つわよ」
「お妾さんも囲い放題ですね。子供の養育費も十分です」
「妾に子供って……冗談だろう?」
「「…………」」
「え? 何、その沈黙。怖いんだけど?」
レストは知らないことだが……ローズマリー姉妹は母親から、レストの愛人候補について話を受けている。
だからこそ、レストが愛人に興味があるのかさりげなく聞いたのだろう。
「……まあ、この話は良いわね」
「……いずれ、おいおいにしましょう」
「おいおい、何が起こるんだよ……」
「それはそうとして……あの『天帝』レオナルド・ガスコインがどうして、レストの前に現れたのかしら?」
ヴィオラが怪訝そうに考え込む。
「もちろん、本物かどうかはわからないけれど……本物だとして、何のためにレストの前に現れたのかしら?」
「さて……どうしてだろうね……」
転生者がどうという話をされたことについては、教えていなかった。
(おそらく、あの爆発の魔力を感じ取ってとかが理由だと思うんだけど……目的は俺に釘を刺すためかな?)
あの魔法……【炎産神】を人に向けて撃つなと言っていた。
(【炎産神】が人間に使われることを避けたがっていたようだが……大量破壊魔法が戦争に利用されるのを防ぎたかったということかな?)
【炎産神】は核兵器にも匹敵する威力がある魔法だ。
それが人に向けられないようにということは、少なくとも人類の敵ではないはず。
(とはいえ……あっち側がどうかとか、堕ちるなとか意味深なことを言って消えたからな。やっぱり気になるよな……)
「あの……学園長先生に聞いてみるのはどうでしょう?」
プリムラが提案する。
「学園長先生……ヴェルロイド・ハーン先生は賢人議会に所属していたはずです。話をしてみたら、何かがわかるのでは?」
「そういえば、そうだったわね」
「なるほど……王都に行ったら、学園に寄ってみようか」
三人はそんな会話を交わしながら、王都に向かっていったのであった。
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