第214話 ユーリにお説教されます

 ワームの親玉……エルダー・ワームを新たに開発した炎の魔法によって吹き飛ばした。

 その後、賢人議会の議長であるレオナルド・ガスコインと遭遇して、謎の発言による説教を受けてしまった。

 ガスコインはレストに釘を刺して転移していき……レストは頭の中に大きなクエスチョンマークを抱えたまま、キャンプ地へと帰還する。


 キャンプ地に戻ると、寝静まっていたはずの全員が起き上がっており、騒然とした雰囲気になっていた。

 あちこちに松明が焚かれて明るくなっており、見張りをしていたラベンダー辺境伯家の兵士が右往左往と走り回っている。


「あ、レスト! どこに行ってたんだ!?」


 レストが空から降り立つと、ユーリがまなじりを吊り上げて声を上げた。


「どこに行ってたんだ! 心配したんだぞ!?」


「すまん……それよりも、そっちこそどうしたんだ?」


「どうしたって……見なかったのか? アッチですごい爆発があったんだぞ!」


 ユーリが湿地帯の方を指差した。

 そこは当然、レストがエルダー・ワームと戦った方向だった。


「何かが暴れるような音で起きてしまって、おまけに、ここからでも見えるくらいに大爆発が起こったんだ! レストはいなくなっているし、とても心配したぞ!」


「あー……悪かったな」


 色々とおかしくなっていて失念していたのだが、アレだけ激しい戦いをすれば、遠くまで音が届いても無理はない。

 おまけに、【炎産神】の大爆発だ。

 あれで起きない人間がいるわけがなかった。


「ちょっと寝付けなくてな……その、戦いに行ってたんだ」


「戦いって……まさか?」


「ああ……」


 レストが重々しく頷く。

 ワーム肉の料理でハイになっていたが、冷静になるとわりとヤバいことをしてしまったと自覚していた。


「あの爆発は俺がやった……ワームの親玉を吹き飛ばすのに使ったんだ」


「レスト……君という男は!」


 ユーリがレストの肩をガッシリと掴んで、前後に揺さぶった。


「どうして、私を誘ってくれなかったんだ! 戦いに行くのならついていったのに……!」


「あ、怒るのはそこなんだな?」


「当然だ! 一緒に戦えないのなら、ついてきた意味がないだろうが!」


 予想外のことで説教を受けてしまった。

 ユーリの性格を考えるのであれば、そうなのだろう。

 環境破壊がどうのとか、常識的な説教なはずがなかった。


「まったく! 次に私を除け者にしたら許さないぞ。ダメ絶対だぞ!」


「あー……わかったわかった。反省しているよ。本当に……」


 元はといえば、ユーリの作った料理が原因なので、一方的に攻められるのは納得できないのだが……ともあれ、怒った女子に対してそういう理屈は逆効果である。

 ここは素直に謝罪をしておく方が、賢明であるに決まっていた。

 まるで散歩に連れていかなかった大型犬のように吠えてくるユーリをやり過ごしながら、レストは他の面々にも目を向ける。


 オストレーはこの場にいない。

 見張りの兵士達に指示を出して、周囲の警戒に当たっているようだ。


「…………」


 ウルラは少し離れた場所から、レストのことを見つめていた。

 その傍らには、従者のアーリーの姿もある。


「二人も起こしてしまって、悪かったな」


「…………」


 一応、謝罪をしておいたのだが……ウルラがジッとレストを見上げてくる。

 感情のわからない、紫水晶のような瞳がレストのことを見つめていた。


「えっと……?」


「やはり、貴方はそうなの……」


「うん?」


「本当に、綺麗な魔力……」


「…………?」


 何を言っているのだろう。

 ウルラはまるで夢の中にいるように、おぼろげで虚ろな口ぶりである。

 話を聞かないという意味では、あの若作りの賢者と通じているものがあった。

 意味不明なウルラの態度に、レストは首を傾げることしかできなかったのである。

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