第208話 マジワーム狩りします
レストは空を飛んで、サブノック平原東部にある湿地帯にやってきた。
冷えた夜風がレストの身体を撫でるが、芯に宿った熱のせいか少しも寒いとは感じない。
「さて……殺るか」
空から地上を見下ろして……レストはいつになく気分が高揚していることに気がついた。
真夜中だというのにやたらと眼が冴えており、火がついたように身体が熱くなる。
(血沸き肉躍るっていうやつか……まさか、自分の中にこんな闘争心が眠っているなんてな!)
闘争心というか、別の感情のような気もするのだが……それはともかくとして。
レストは魔法によって視覚を強化しつつ、湿原を見下ろす。
「フン……」
たとえ夜目を強化したとしても、さすがに泥の中にいる魔物まで見通せない。
ワームを狩るとなれば、沼地の奥底からおびき寄せるしかない。
「問題ないな。余裕じゃないか」
ハイになっているレストは魔法を発動させる。
それはユーリやウルラが一緒であったのならば、絶対に取ることがなかったであろう方法だった。
「【魔寄せ】」
レストの頭上に光の線が走り、幾何学模様が描かれる。
円を基調とした魔法陣の効果は魔除け。すなわち、魔物を呼び寄せる効果があった。
かつて愚王子と呼ばれた男……ローデル・アイウッドもまた平原で魔寄せのマジックアイテムを使用して、サブノックのスタンピードを引き起こした。
皮肉なことに……ローデルを倒したレストが、同じ方法を取ったのである。
「魔物を呼び寄せる魔法は禁術だと、メイティス導師が言っていたな……できるだけ使うなだっけか?」
魔物を呼び寄せる魔法を悪用すれば、村や町、小さな国であれば滅亡に追いやることができるだろう。
だからこそ、許可なく使用することも教授することも許されない禁術に指定されていた。
とはいえ……その禁術をレストに教えたのはジャラナ・メイティス。宮廷魔術師の最古参である老婆。
彼女は「できるだけ使うな」と言っていただけなので、理性が飛びつつあるレストはまあ、良いかと使ってしまう。
「おお、来たな」
レストが魔法を使用して、さほど時間が経つことなく変化が生じた。
気配察知の魔法に反応。それも複数である。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
最初の一匹が飛び出してきた。予想通り、幼生体のワームである。
ワームは興奮した様子でレストめがけて喰らいついてくる。
「【星喰】」
レストは風を操ってワームの口を回避して、その胴体に漆黒の球体を叩きつける。
瞬間、ワームの身体の一部がえぐれて闇の中に取り込まれた。
暗黒星……任意の対象を吸い込むことができるブラックホールである。
「GYAAAAAAAAAAAA!」
「五月蠅い」
レストは短く言って、そのまま空中を移動する。
ゴリゴリとワームの身体を削り取り、暗黒星の中に吸い込みながら。
「GYA……OOO……」
大きな肉体を存分に喰われて、ワームが沼の中に倒れていく。
ズブズブと泥の中に沈んでいき、二度と浮かび上がってくることはなかった。
「ハハハハハッ! また一匹、ワームを食べちまったみたいだな!」
夕食に続いて、夜食でワームを食べてしまうとは何ということか。
これでは、好物だと思われても否定できないではないか。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
さらに二匹目、三匹目、四匹目と立て続けにワームが飛び出してきた。
仲間がやられたことを知ってか知らずか、出て来て早々にレストを敵認定して襲いかかってくる。
いくらレストといえども、たった一人で三匹のワームを相手にするのは骨が折れる。
「【
しかし、レストは別の魔法を発動させた。
先ほどは闇の魔法を使用したというのに、今度はいきなり逆の属性……光の魔法である。
眩い閃光が闇夜に放たれて、ワームの目を焼いた。
「「「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?」」」
ワームは地中に棲んでいるドラゴンだ。目は退化しているようだが……無いわけではない。
闇夜で急に眩い光をぶつけられたら、身動きを封じるくらいはできるだろう。
「【風操】」
当然ながら、レストは目をつぶっている。
目を閉じたまま気配察知を頼りに飛んでいき、ワームに暗黒星をぶつけてやる。
「二匹目」
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「三匹目、四匹目」
「GYAAA……!」
レストは魔法を駆使して敵の攻撃を煙に巻きながら、次々とワームを撃破していった。
昼間のうちに戦った経験から、彼らの殺し方はわかっている。
足手纏いなどというつもりはないが……ユーリ達のことを気にせずに好き勝手戦えば良いだけ、むしろやりやすいとすら思う。
「ヤバいな……ちょっと楽しくなってきたぞ……!」
レストは戦いがそれほど嫌いではない自分に気がついた。
ローデルと戦った際にも、激しい戦いの中で相手と通じ合うものがあった。
自分が戦闘狂であると思ったことはないのだが……夕飯のせいで余計に高揚感に磨きがかかっている。
「まだまだ、殺れる気がするな……もっともっと……!」
「「「「「「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」」」」
そんな時、地の底から幾重にもこだましてくる絶叫。
同時に、気配察知の魔法に特大の魔物が引っかかった。
「ようやく、お出ましか……気を持たせやがって」
恋焦がれるような不思議な気持ちになりつつ、レストは『それ』の登場を待つ。
「「「「「「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」」」」」」
やがて、爆発するように泥が弾けて『それ』が現れた。
地中から出てきたのは巨大なワーム。これまでの幼生体よりも明らかに大きい。
裂けた口と閉じた眼球。町を一つ呑み込まんばかりに巨大なワームがレストの前に出現した。
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