第207話 爆発しました

 深夜。

 テントの中から、物憂げな声が漏れてくる。


「……眠れねえ」


 女性陣の後で手早く入浴を終えて、レストは結界に魔力を供給する作業に戻った。

 ひたすら地面の魔法陣に魔力を注いで、夜が更けてきたら魔法陣の上に張ったテントで休んだ。

 今日は色々あって、本当に疲れた。精神的に。

 さっさと寝てしまおうとしたのだが……いっこうに眠れる様子がない。

 それもそうだろう。

 レストは先ほど、スッポンも顔負けの滋養強壮料理を食べている。

 おまけに、入浴時には女性陣から謎の誘惑を受けてしまい、悶々とした気持ちにさせられたのだから。


「眠れない……全然、眠れない……」


 むしろ、どんどん眼が冴えているような気すらした。

 適度に欲望を解消すれば楽になるのかもしれないが……少し離れたテントで、ユーリやウルラが眠っている。

 ユーリは五感が優れていて臭いにも敏感。

 ウルラはそうではないだろうが……何故か彼女に見つめられていると、心の奥底を覗かれている気分になってくる。


 ただでさえ、予想外の行動をしがちな二人である。

 万が一のアクシデントを避けるためにも、迂闊な行動は避けるべきだろう。


(ユーリは……寝ているか。暢気なもんだな……)


【気配察知】の魔法を常時発動させているため、少し離れた場所にあるテントでユーリとウルラ、カーリーの三人が眠っているのが感じ取れる。

 誓っていうが……狙って彼女達を探っているわけではない。

 ただ……ワームの血やら肉やら睾丸やらのせいか、いつにも増して神経が研ぎ澄まされており、ユーリ達の息遣いや寝返り前でもが感じ取れてしまうのだ。


(毛布を跳ねのけたな。風邪を引かないと良いんだが……って、気持ち悪っ!)


 寝ている女子の一挙手一投足を感じ取っているとか、どんだけ気持ち悪い奴なのだ。

 原因を作ったのがそもそも彼女達であるとはいえ、謎の罪悪感により押しつぶされてしまいそうである。


「あー、もう! ダメだダメだ、寝ていられるか!」


 レストは勢い良く起きて、テントの外に出た。

 こうなったら、ユーリ達を夜這いに…………行くわけがない。

 一瞬だけ迷いが生じなくもなかったのだが、そんな紳士としてあるまじきことはしない。


「魔物狩りにでも行こう……!」


 ジッとしていても悶々としてしまうだけなのだから、身体を動かして発散してしまえば良い。

 幸い、ここには魔物がたくさんいる。

 血の気が引くまで思いきり魔法を撃ちまくって、発散してしまおうではないか。


(性欲をスポーツで発散するやつだな……よし、やるか!)


 レストは魔法陣にタップリと魔力を注いでおく。

 これで一、二時間留守にしたところで魔物避けの結界が消えることはあるまい。


「【隠形】【浮遊】【風操】」


 三重奏での魔法発動。

 女性陣を起こさないように姿を隠して、レストは空に向かって浮かび上がった。

 空に浮かぶ満天の星空に向かって飛んでいき……そのまま、風を操って西に向かって飛んでいく。


「まあ……そもそも、俺がこんなことになったのはワームのせいだな。全部全部、ワームが悪い」


 ワームがいなければ、この場所に来ることはなかった。

 ワームの肉を食べなければ、血を飲まなければ、ここまで精がつくこともなかった。

 ユーリやウルラに振り回されることもなく、頭というか下半身に血がみなぎって懊悩することもなかったのだ。


「よし……殺そう。徹底的に。片っ端から殺しまくろう!」


 普段であれば、レストもここまで過激なことは考えない。

 幼少時から訓練として魔物と戦ってきたが、彼らに対して恨みや憎しみを持ったことはない。

 いつになく血の気が濃くなっているのは、やはりワームの肉が原因だろう。

 レストは深夜だというのにワームが生息している湿地帯に向けて飛んでいき、徹頭徹尾の狩りを実行する。


 ワームの肉によって、ワームが殺し尽くされることになる。

 それは悲しく皮肉な食物連鎖の結果なのであった。

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