第205話 ワームの効果が出ました

 ワームの肉で作った串焼きとスープを実食した。

 どちらも意識を飛ばすほどに美味であり、グロテスクな見た目ほど悪くはない料理だった。


「ごちそうさま……美味しかったよ。二人とも」


 レストは食事を作ってくれたユーリとウルラに礼を言う。


「まさかワームがあんなふうに化けるなんて思わなかった。何というか……月の向こう側までぶっ飛ぶほどに美味しかったよ」


 あやうく、二度目の異世界転生をするところだった。

 宇宙のように不思議な味だったが……よくよく味わってみると、まあ、美味しかったので良しとしておこう。


「さて……それじゃあ、俺は結界の魔力供給に……」


「待て、レスト」


 食卓から立ち上がろうとするレストであったが……ユーリの声に呼び止められる。


「デザートがまだだぞ」


「…………」


 知っている。

 知っていて、スルーして去ろうとしていたのだが……逃げ道を塞がれてしまったらしい。


(いや……わかるよ。認めよう。ユーリ……お前はすごい奴だ)


 レストは心の中で目の前の友人を称賛する。


(お前の食に対する探求心。美味い物を嗅ぎ分ける実力は本物だ。認めよう。だけど……いつ爆弾に当たるか怖くて仕方がないんだよ……)


 いくらユーリに天性の美食センスがあったとして、それがいつまでも続くという保証はない。

 基礎の積み重ねがなく、センスだけで進んでいる人間はいつか大失敗をする。

 レストは二度の人生により、そのことを悟っていた。


(そもそも、虫だの魔物だのの肉を食っているくせに、お前のその発育は何だよ。胸はデカいし太腿は柔らかそうだし、尻だってムッチリと育ちやがって……あんまり馬鹿なことばかり言ってると、その胸を……)


「ん?」


 レストは首を傾げる。

 とんでもなくゲスなことを頭に描いてしまったような気がするが……自分は普段から、こんなスケベなことを考えていただろうか?


「ん……ゼリー」


 ウルラがすすっと差し出してきたのは、木皿の上に載せられた半球状のプルプル。ピンク色のゼリーだった。


「ゼリー? そんなの、どうやって作ったんだ?」


 レストが目を白黒させる。

 そもそも、ゼリーというのは自作できるものなのか。


「ああ。よくわからないのだが……ワームの肉を熱したり冷ましたり混ぜたり捏ねたりしていたら、それらしい物ができたんだ。味見したら美味しかったから、食べてみてくれ」


「ぐ、偶然の産物なのか……」


 そんな物を食わせるなと言いたくなる。

 どんな錬金術をしていたら、ワームをいじっていてゼリーができあがるというのだ。


「食べて」


 できることなら断りたいのだが……ウルラが長い前髪の隙間から上目遣いで見上げてきて、真っすぐな視線が拒絶を許さない。


(クッ……この子も子供だけど、将来的には美人になりそうだよな。よくよく見れば、子供のくせに発育は悪くないし、今に食べ頃に……)


「いや……何だ、俺?」


 またしても、おかしなことを考えていた。

 今日の自分はどうしてしまったのだろうと、本気で困惑する。


「……食べない、の?」


「いや……食べるけど」


 レストは恐る恐る、ゼリーの皿とスプーンを受け取った。

 見た目は悪くない。

 綺麗なピンク色をしており、桃のゼリーだと言われたら信じてしまいそうだ。


「…………」


 助けを求めて周りを見るが……ユーリもウルラと同じように、ワクワクとした表情でレストのことを見つめている。


「……どうぞ、遠慮なくお召し上がりください」


「おほしさま、きれい」


 ウルラの従者であるアーリーはもちろん、止める様子もなくグーサイン。

 オストレーはいまだに月の向こう側にトリップしており、戻ってくる様子がない。

 助け舟を出してくる人は誰もいないようだ……レストは仕方がなく、ゼリーにスプーンを差し込んだ。

 半透明でプルプルとしており、いかにも瑞々しそうで。

 美味しそうなゼリーに見えるのが、かえって怖く感じられる。


「いただきます……」


 意を決して口に運ぶと……チュルリと口から喉にゼリーが流れ込んでいく。


「…………!?」


 味はしない。

 不味くはないが美味くもない。完全な無味無臭である。

 だが……何なのだろう。呑み込んだ途端に身体の奥底から湧き上がってくるこの熱は。


(まるで火のついた炭を呑み込んだみたいだ……いったい、俺は何を食わされたんだ!?)


「おお、効果が出てきたみたいだな」


「大成功」


 ユーリとウルラが顔を見合わせて、笑顔になっている。


「い、いや……コレはいったい……」


「ワームの体液やら生殖器やらで作ったんだ。レストは働きづめで疲れているようだから、きっと元気が出るぞ!」


「…………!?」


 そういえば……ゼリーによって生じた熱が身体の一部に強い影響を与えている。


「元気が出るって……違う意味になっているだろうが……!」


 そういえば……先ほどから、やけにエロいことを考えてしまっている。

 もしかすると、ワームの血肉にはスッポンのように滋養強壮の効果があるのだろうか。


「これで疲れも取れて、今晩はゆっくり眠れるな!」


「眠れるか!」


 大きな胸を張ってくるユーリに、レストは思わず声を荒げて叫ぶのであった。

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