第201話 地獄のクッキングです
サブノック平原東側。湿地帯近くにある小高い丘の上。
レストとユーリ、ウルラ、従者の女性、オストレーという名の騎士の五人はそこをキャンプ地として、テントを張ることにした。
「夕飯にしよう。クッキングの始まりだ!」
「お料理……いえー」
ユーリがクッキングの開始を宣言して、ウルラも握りこぶしを頭上に掲げた。
その後ろで従者の女性……今さらになって名前を聞いたが、アーリーという名の女性がパチパチと拍手をしている。
「…………」
「…………」
ユーリとオストレーは置いてけぼりである。
二人は少し離れた場所でテントの設営などの雑務を行いつつ、怖々と様子を窺っていた。
「お料理……作りたい」
「ああ、ウルラは料理をしたことがあるのか?」
「…………パン、燃やす?」
「おお、『焼く』のではなく『燃やす』と言っている時点で、料理経験がないのがわかるな! 心配するな、私が教えてあげよう!」
ユーリが力強く胸を叩く。ポヨンと大きな肉が揺れている。
「私は昔から料理はするぞ! 最近ではプリムラから教えてもらっているし、もはや達人と言っても過言ではない!」
過言だよ……レストは心の中でツッコんだ。
ユーリの料理の腕前は色々と大雑把すぎるとヴィオラとプリムラから言われている。
「さて……今日のメインディッシュだが、こちらの食材……ワームの肉を使ってみようと思う!」
「ウワッ!」
レストが思わず声を上げる。
ユーリが取り出したのは、素材として回収していたワームの一部だった。
倒したワームの大部分はラベンダー辺境伯家の兵士に引き渡していたのだが、その一部を確保していたらしい。
レストが土魔法で作った即席の調理台に、不気味な肉塊が載せられた。
「キャンプといえばバーベキューだな。この肉で串焼きを作ろう!」
「……疑問」
「ああ、コレが食べられるかと疑問に思っているのだな? 心配いらない、私の直感がコレはイケると訴えている!」
「……びっくり」
「ああ、驚きの味がすることだろう。それでは……下ごしらえの開始だ!」
ユーリが大きな肉切り包丁を取り出した。
牛馬の肉を骨ごと切断できるような大きな包丁である。
「おっと切る前に肉を洗って泥を落とさなくてはいけないな……レスト、やってくれ!」
「ええ……」
遠くから、ユーリが呼びかけてくる。
すごく、嫌だ。
聞こえなかったフリをしたいのだが……ユーリがさらに声を張り上げてくる。
「レスト! レスト! 聞こえないのか、レスト!」
「わかったわかった! 聞こえてるって!」
仕方がなく、レストは返事をした。
調理台まで歩いて行き……水魔法でワーム肉の表面についた泥を洗い落とす。
「ありがとう、助かった」
「……それ、本当に食べるのか? 泥を落としたら黒と紫のまだら模様なんだが?」
「ああ、食べる。もちろんだとも」
洗ったら、より食欲のない見た目になったのだが……ユーリは依然として食べるつもり満々である。
「こっちの野菜も頼む。それから、火を熾して鉄板も温めておいてくれ。すぐに美味しい料理を作るから待っていてくれ」
「…………おう」
レストは引きつった顔で言われたとおりの作業を行い、テントの設営に戻っていった。
「それでは、この肉の皮を剥ごう。コレは固くて食べられたものではないからな」
「剥ぐ」
「おお、上手いぞ。ウルラ」
「ハンター」
「そうか、そうか……狩りが得意だから獲物の皮を剥ぐのは得意なんだな。次は手ごろなサイズにカットするぞ」
「ビックリ」
「おお、驚いたな。中から小さな虫が大量に出てきたぞ! ちょうどレストが火を焚いてくれたところだから、コレで焼き殺そう」
「ジュージュー、焼く」
「そうだ、そうだ。それにしても臭みが強いな。ガーリックベースのソースに漬けて臭みを取ろう。香草も刻んでかけておこう」
「どこで?」
「どこで見つけたのかって? その辺りに生えていたので摘んでおいたんだ。見たことがない種類だし、まるで血のように赤い葉っぱで放っておくと足が生えて逃げようとするが……まあ、たぶん大丈夫だろう」
恐ろしい会話が聞こえてくる。
レストは一緒に作業をしているオストレーと顔を合わせて、ガクブルと震えた。
「く、クローバー伯爵……」
「……気にするのをやめよう。心を無にして、彼女達の声を聞かないようにするんだ」
男二人は無心になってテントの設営に集中して、地獄のようなクッキングから意識を逸らしたのである。
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