第200話 ワームを狩ります

「【水砲ウォーターボルト】!」


「GYAOOOOOOOOOOO!」


 レストが放った魔法がワームに浴びせられる。

 強烈な水魔法。高水圧のウォーターレーザーを受けて、ワームが怒りの咆哮を上げた。


「GYAOOOOOOOOOOO!」


「なるほど……水属性の魔法は効き目が弱いな」


 魔法を受けながらもさほど怯む様子もなく、ワームが暴れ狂っていた。


 レストと戦っているのはワーム……その幼生体である。

 最初の一匹を倒してから、レストは引き続き湿地帯の探索を行っていた。

 すでに何度かワームと交戦している。これが四匹目だ。

 戦闘したワームはいずれも幼生体であり、親の個体とは会えていない。


 レストは戦いながら、ワームに様々な魔法を浴びせて弱点を探っていた。


「風属性は効く。水属性と土属性はほとんど効かない。火属性と雷属性はまあまあってところかな?」


「GYAOOOOOOOOOO!」


「【風嵐ウィンドストーム!】


「GYAOOOOOOOOOO!?」


 風属性の上級魔法。

 荒れ狂う風の刃がワームの巨体をズタズタに切り刻む。

 この魔法は広範囲に風の刃をまき散らす魔法で、本来は単体の敵に対して使うものではない。

 しかし、ワームほど身体が大きければ、あますところなくその破壊力を生かすことができる。


「GYAAAAAAAAAA!」


 ワームが紫色の体液で全身を濡らしながら、レストを押しつぶそうと身体を叩きつけてきた。


「ヤアアアアアアアアアアアッ!」


「GYAO!?」


 しかし、割り込んできた影がワームの頭部を蹴り飛ばす。

 凄まじいスピードで割って入り、稲妻のような蹴りを浴びせたのはユーリである。

 ユーリは蹴撃で人間の胴体を切断できるほど、身体能力が高い。

 その一撃がワームを怯ませ、頭部をぬかるんだ地面に叩きつける。


「よし、今だ!」


「ああ……任せろ!」


 レストがさらに魔法を発動させる。

 周囲の明るさがわずかに落ちて、レストの手に光の玉が出現した。


「【天照】!」


 そして……放たれる光の一撃。

 凝縮された光線がワームの頭部を撃ち抜いた。


「GYA……」


 ワームは苦しそうに呻いてから、そのまま絶命して泥の中に沈んだ。


「そして……光属性。地中で生活しているんだから、当然といえば当然の弱点だよな」


 四回目の交戦により、ワームの弱点はおおむね把握できた。

 これならば……親の個体と戦っても、有利に戦うことができるだろう。


「……尊い」


 そんなレストの戦いを離れたところから見て、ウルラが何かをつぶやいている。

 その言葉はレストの耳に届かなかったが……長い、前髪のカーテンから強い視線を感じた。


「……お見事です。さすがですな」


 そんな主人に代わって、ラベンダー辺境伯家の兵士であるオストレーが賞賛の言葉をかけてくる。


「幼生体とはいえ、これでワームが四匹。上級魔法を何発も撃っていながら、いまだに魔力が尽きる様子がない……心から、感服いたします」


「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」


「お世辞などでは……いや、本当に凄まじい……」


「ん……レスト、様はすごい……」


「とても素晴らしく、見事な魔法。その一騎当千の戦いぶりには改めまして敬意の念を抱きます……と、お嬢様は仰っています」


「いや……絶対、そんな長文しゃべってないよな?」


 ウルラと従者の女性も相変わらずだが、とりあえず誉められているのは間違いなかった。


「これで四匹。親のワームはどこにいるんだろうな?」


 湿地帯を捜索してきたものの、親の個体らしきワームは出現していなかった。

 気配を察知する魔法にも引っかからないし、影も踏むことができていない現状である。


「ウーン……せめて固い地面だったら、もっと捜索もスムーズにできるんだろうなあ」


 ユーリが地面のぬかるみから足を引き抜いて、どこかウンザリした顔になる。

 この湿地帯は文字通り、全体的に湿っている。

 半分が大小の沼であり、深い場所であれば大人の身長以上の深度があった。

 船がなければ進めない場所、ぬかるみに足を取られて進めない場所も多い。

 レストが魔法で足場を作り、どうにか進むことができているが……平地よりも何倍も時間がかかっていた。


「もう夕方になる。今日は引いて出直そう」


 強力な魔物が蔓延る巣窟。

 おまけにデロデロの泥の地面で夜明かしをするなど、ゾッとした話である。


「キャンピング……いえー」


 ウルラが何事かを提案してくる。

 ユーリも両手を合わせて、ハシャイダ声を上げる。


「おお、キャンプか! 面白そうだな!」


「お嬢様は湿地帯の外に出て、固い地面の上でテントを張ってキャンプをしようと仰っています。いちいち、平原の外に出てしまったらいつまで経っても、湿地帯の探索が進みません。どこかに拠点を作り、腰を据えて探索をするべきです」


「そうだな……」


 従者の女性の解説を受けて、レストも頷いた。

 湿地帯の探索は平地と比べて時間がかかる。

 長期戦を覚悟して、湿地帯の傍に拠点を置くべきだろう。


「ちょうど魔物避けの結界も修得した。どこか適当な場所を探そうか」


 レスト達は泥と沼の湿地帯から戻り、平地の場所まで後退した。

 その頃には夕日が西の空にかかっていた。

 魔法で身体を清めてから、テントを張ってキャンプ地を作るのだった。

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