第197話 すごく大きいです
「すごいな、その弓は。いったい、どうやって撃っているんだ」
「ああやって、こう」
「フムフム……だが、それだったらこうやって、そう。じゃないか?」
「雑……ああやって、こう」
「ああ、なるほどなるほど。それは確かにああやって、こうだな」
平原の東側を歩きながら、ユーリとウルラが話し込んでいる。
二人の話題に上がっているのは、もっぱらウルラの弓についてである。
先ほど、魔物を撃ち抜いた絶技を見て……ユーリが興味を持ってアレコレと話を聞いているのだ。
ユーリは好奇心旺盛な性格だ。
誰に対しても、どんなジャンルに対しても、自分が興味を抱いた事柄について正直に生きている。
今も和やかにウルラと会話をしており、弓の撃ち方のレクチャーを受けていた。
「こう……か。うーん、当たらないな」
「ちっさ」
「ああ、そうだな。弓が私には小さすぎるようだ。もっと大きく、丈夫な方が良いな」
「はる」
「弦も固く張った方が良いということだな。なるほど、なるほど……」
ユーリはいつの間にか、ウルラと普通に会話していた。
レストにはウルラが何を言っているのかさっぱりわからないのだが……ユーリはすでに彼女の言葉を通訳なしで理解していた。
「ユーリ……よくわかるな」
「ん? ああ、言葉で理解しようとせずに心で受け止めればいい。パッションという奴だな!」
「…………そうか」
わからなかった。
どうやら、レストにはまだ早かったようである。
和気あいあいと話している二人の輪には入れそうもなかった。
(まあ……正直、助かるっているのはあるよな。間に入って緩衝材になってくれて)
正直、この場にいるのがウルラとラベンダー辺境伯家の身内だけだったら、気まずくて仕方がなかっただろう。
(ユーリを連れて来て正解だったな……この子の天真爛漫さはある種の才能だな。生まれつきの性格なのか、特殊な環境で生きてきたせいか。カトレイア侯爵家ではどんな生活していたんだろうな?)
「ここから、湿地帯になります」
先導していたオストレーが言ってくる。
言われて見れば……足元の水気が増しており、まるで水溜まりのようになっていた。
そこから先は小さな沼があちこちに点在しており、陸地の部分も水気を帯びた泥の地面になっている
「今さらだけど……この土地を開発するメリットはあるのか?」
こんなに水と泥だらけでは、町や畑を作るのもままならないのではないか。
そんなふうに思うレストであったが……ウルラが首をフルフルと振った。
「魚、カニ、水」
「お嬢様が仰るには……」
「ほほう、つまり魚やカニなどの魚介類を養殖したり、水源として東に水を引くのだな! なるほど、なるほど……確かに、栄養も豊富そうだしここで育った魚は脂が乗っていそうだな!」
「ムッ……!」
従者の女性に先んじて、ユーリがウルラの言葉を代弁する。
自らの仕事を取られた従者の女性がユーリを睨みつけて、バチバチと火花を散らせていた。
「湿地には湿地の利用方法があるってわけか。だったら、邪魔な魔物を倒さなくちゃいけないな」
「はい、よろしくお願いいたします」
オストレーが頭を下げる。
「ほとんどの魔物は我々で対処できるものなのですが……ワームだけはどうにもならず、苦慮しているのです。クローバー伯爵様がどうにかしてくださると助かるのですが……」
「まあ、善処してみよう。会ってもいない敵に勝てると断言は……」
レストは言葉を止めた。
【気配察知】の魔法に引っかかる気配があったのだ。
大きな気配が西側から……湿地帯の水の中を這うようにして接近してくる。
「みんな、警戒を! 来るぞ!」
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
レストが警戒を呼びかけると同時に、低い絶叫が放たれた。
大量の泥が周囲に撒き散らされる。
そして……巨大な蛇のような生き物が水の中から飛び出してくる。
「おお、でっかいぞ!」
「すごく……大きい、です」
ユーリが目を輝かせて、ウルラが震える声でつぶやく。
「アレが……ワームか!」
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
電信柱のような太さの大蛇が天を衝いて、絶叫する。
レストは巨大な魔物を迎撃するべく、体内の魔力を練り上げた。
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