第194話 迫りくる乳……!?
「すまない……どうやら、トイレの後で寝ぼけてしまったようだ……」
やがて覚醒したユーリがベッドの上に座り込み、そんなふうに謝罪する。
『もう食べられない』とかベタな寝言をほざいていたユーリであったが……どうやら、ベッドに入ってきた理由もベタなものだったらしい。
「無意識に抱き着いてしまったらしいな……すまない、許してくれ」
「…………おう」
申し訳なさそうにしているユーリから、レストは鋼の意思で視線を背ける。
コテージで暮らしていた頃から気がついていたが、ユーリには脱ぎクセがあるらしい。
眠っている間に寝間着を脱ぎ捨てており、下着もズレて胸やら尻やらすごいことになっている。
(いや……朝っぱらからラッキースケベとか、どこのラブコメ主人公だよ……)
レストがそう思ってしまうのも無理はない。
ファンタジーな世界に転生したはずなのに、まるで世界観が異なるイベントに遭遇してしまったのだから。
ともあれ……レストもそれなりに修羅場は潜り抜けている。
今さら、顔見知りの少女が半裸でいるくらいで取り乱しはしない。
努めて冷静を装って、ベッドの下に落ちていた服を拾う。
「まあ、謝罪は受け取った。これから気をつけてくれたら問題ない」
「……すまない」
「とりあえず、服を着てくれ。早くしないと朝食が……」
「失礼いたします。もうお目覚めでしょうか?」
ガチャリと扉が開いて、宿屋の店員が入ってきた。
昨日の店員とは別人。若い女性の店員だった。
「朝食をお持ち…………ヒエッ!?」
ワゴンを押して入ってきた店員であったが、ベッドの上にいる二人の姿を見るや引きつった悲鳴を上げる。
「し、ししし、失礼いたしましたー!」
そして、悲鳴を上げて去っていった。
これまた、ありきたりなイベントが起こったものである。
レストは服を差し出した体勢のまま肩を落とす。
「ああ、さっそく朝食が運ばれてきたようだな。それでは、着替えるとしよう」
「ブフッ!」
レストの試練はまだ終わっていなかった。
先ほどまで謝罪していたユーリが下着を脱ぎだしたのだ。
よいしょと持ちあがる下着。零れ落ちる乳。目を逸らす直前の一瞬だけで、網膜に焼きついた先端のピンクの突起。
いったい、レストが何をしたというのだろう。
(こ、これは罰なのか!? それとも、頑張って開拓に参加してきたご褒美なのかっ!?)
「な、何で脱いでるんだよ! 服を着ろと言っただろうが!?」
「いや、下着が汗でグショグショだったからな。私だって乙女だ、男の子の前で汗臭い格好でいたくはない」
「乙女が男の前で服を脱ぐんじゃない!」
レストが声を荒げてツッコんだ。
自分が間違っているのだろうか……ユーリは恥ずかしげもなく、脱衣を続けている。
レストが顔を背けた後ろで、スルスルと脱衣音が聞こえてきた。
先ほど、上を脱いでいたということは……今はパンツを脱いでいるのだろうか?
かつてない状況を前にして、レストの想像力がこれでもかと掻きたてられた。
「さて、着替え終わったぞ。朝食にしようか」
着替えを終えたユーリが笑顔で言って、店員が置きっぱなしにしていたワゴンを部屋の中に入れて、そこに置かれていた料理をテーブルに並べる。
「ああ、美味しそうだ。レストも食べるだろう?」
「……食べるよ」
レストが何故か負けたような屈辱を胸に、やけっぱちのように返す。
(どうして、俺の方がやられたみたいな気持ちになっているんだ……どっちかというと勝ってるよな?)
勝ち負けの問題ではないが。
相手のほぼ裸を見ているのだから、レストが勝利者のはずである。
それなのに……余裕の表情のユーリを見ると、自分が敗者のような気持ちになってきてしまった。
「お茶を淹れてやろう。プリムラから習ったんだ」
「…………」
朗らかに笑うユーリを、レストは半眼になって悔しそうに睨みつけたのであった。
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