第190話 お泊まりします……ユーリと
馬車が走ること半日。目的の場所へと到着した。
西側のものと比べると小規模な集落は、ラベンダー辺境伯家と傘下の貴族によって作られたものである。
小さいとはいっても、それなりに人の姿はあった。
商品を売っている行商人もいれば、魔物の解体をしている冒険者らしき人間の姿もある。
「……お持ち帰り」
「それでは、御二人にはこちらに泊まっていただきます。ワームの討伐は明日からと言うことでよろしいでしょうか?」
ウルラが何かをボソリとつぶやいてから、従者の女性が補足する。
ウルラがとんでもないことをつぶやいたような気もするが、追及しない方が良いということがヒシヒシと伝わってきた。
レストとユーリは開拓村に建てられた宿屋に通される。
できたばかりの小さな宿屋はほとんど簡素で質素な場所だった。本来であれば、貴族が泊まるようなところではない。
「それでは、ごゆっくり」
「……また」
ウルラと従者の女性はレスト達を宿屋に案内して、どこかに去っていった。
レストとユーリが宿屋の前に残される。
「……それじゃあ、入ろうか」
「ああ、初めてだな。二人きりでのお泊まりは」
「……言うなよ」
あえて意識しないようにしていたというのに、どうして指摘してくれたのだろう。
ユーリと同室で眠ったことはあったが……他の人間がいて、二人きりになったことはなかった。
(いや……落ち着け、ここは宿屋だ。一部屋であるわけがない。別々の部屋に泊まれば済むだけのことじゃないか……)
レストは軽く深呼吸をしつつ、宿屋の門をくぐった。
「いらっしゃい。アンタがクローバー伯爵だね? お嬢様に言われて、部屋は取ってあるよ」
中に入ると、店主らしき男性が明るく声をかけてきた。
「それじゃあ、案内するね。ついてきてくれ」
そして、さっそく部屋に通された。
ツインのワンルームの部屋に案内される。
「ここは……」
「それじゃあ、ごゆっくり」
「ちょっと待った……部屋はここだけなのか?」
ツインとはいえ、一つの部屋ではないか。
まさか……ここにユーリと二人で泊まれというのだろうか。
「ああ、二人用の部屋だから問題ないだろう? 悪いけど……他の部屋は満室なんだ」
「なっ……!」
「ちなみに……まだこの開拓村には宿は少ないから、他の場所にも部屋は取れないと思うよ。食事はあとで部屋に届けるから……それじゃあ、また」
店主がのんびりとした口調で言って、レストとユーリを部屋に残して去っていった。
「レストとお泊まりか……フフフ、何故だろうな。妙にドキドキするな」
「ウッ……」
ユーリがベッドに腰かけて、はにかんで笑う。
完全な気のせいだと思うのだが……何故だろう。
不思議と、いつもよりもユーリのことが色っぽく見えてしまう。
(待て……雰囲気に呑まれてどうする。落ち着け、ユーリだって意識しているわけがない……!)
レストは気持ちを落ち着けるため、水筒の水に口を付けた。
「よいしょっと」
「ブフッ!」
そして、水を噴く。
ユーリが急に服を脱ぎだしたのだ。
上着を脱いで下着に包まれた胸が露わになる。
奔放で少年っぽい性格とは裏腹に、その乳房のサイズはかなり女性らしくたわわだった。
「なぬ、ば……グフッ……!」
「どうした、レスト! しっかりするんだ!」
「その格好で近寄るなっ……ていうか、何で脱いでるんだよ!」
「何でと言われても……今日はここに泊まるのだろう? 部屋着に着替えようと思っただけなのだが……?」
「俺の目の前でするな! 女子なんだから少しは恥じらえ!」
思わず、声を荒げるレストであったが……ユーリがキョトンとした表情で首を傾げている。
「心配せずとも、他人の前では脱いだりしない。だが……レストは友人だから、見られても問題はないだろう?」
「友人だからって……いや、男だぞ?」
「そうだな、男だな」
ユーリが何でもないことのように頷いた。
「私のような女の身体にレストが欲情するとは思わないし、仮に欲情されたとしてもいっこうに構わない。レストにだったら、私は何をされても許せると思っているからな」
「~~~~ッ!?」
「ちなみに……ヴィオラとプリムラにも許可を取っているぞ? 試しに、触ってみるか?」
「グハッ……!」
ユーリがレストの目の前で、やわやわと自分の胸を揉んでみせる。
あまりの衝撃の光景を前にして……レストは顔面を殴られたかのように悶絶したのであった。
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