第188話 アンドリューに報告します in夕方

 ウルラからの依頼を受けたレストであったが……もちろん、すぐに平原東部に行ったりはしない。

 今回の開拓の総責任者は第二王子であるアンドリューなのだ。

 アンドリューがいるであろう開拓団の本部へと向かっていった。


「じきに夕方だが……まだ、この時間ならば大丈夫か」


 結界を張って開拓が一段落ついたことで、アンドリューの負担もかなり軽くなっている。

 以前よりも仕事量は減っているようだし、今から行っても問題はあるまい。


「失礼、アンドリュー殿下はいらっしゃいますか?」


「ああ、クローバー伯爵か。中にいるよ」


「ちょうどベトラス卿も来ている。クローバー伯爵ならば、いつでも通してい良いと許可が出ている。入りなさい」


「ああ、ユースゴス先輩も来ているんですね。ありがとう」


 顔見知りの兵士が中に通してくれた。

 レストは礼を言ってから建物の中に入り、アンドリューの執務室へと歩いていく。


「アンドリュー殿下、レスト・クローバーです。入ってもよろしいでしょうか?」


「く、クローバー伯爵……ちょっと待ってくれ……!?」


 執務室の扉をノックすると、何故か中から焦ったような声が返ってきた。

 しばし中からガタガタと音がして……ようやく、入室の許可が出る。


「は、入ってくれたまえ……」


「失礼いたします」


 レストが入室すると……聞いていた通り、そこにはアンドリューの他に側近のユースゴス・ベトラスの姿があった。

 二人は……何故だろう、やけに疲れた様子で息切れをしている。


「ハア、ハア……ま、待たせてしまってすまないな……」


「フウ、フウ……」


 執務机についているアンドリュー。壁際になっているユースゴス。

 二人とも息が荒く、心なしか汗もかいているような気がした。


「もしかして、お邪魔でしたか?」


 まるで何かを隠しているような雰囲気である。

 機密性の高い内容について打ち合わせでのしていたのだろうか?


「じゃ、邪魔だなんてそんな……! いや、ちょっと重要な仕事の話をしていてね……すまなかった」


「いえ……こちらこそ、急にお邪魔してしまってすみません。問題があったら明日にでも出直しますけど……」


「いや、大丈夫だ……それよりも、何の用かな?」


「実は……」


 レストがウルラから聞いた話について、説明をした。

 説明が終わった頃には、アンドリューの息も整って落ち着いた様子になっている。


「そうか……東側の湿原に大型の魔物が棲みついているということは聞いていたが、まさかワームだったとはな」


「どうしましょうか?」


「ラベンダー辺境伯家に任せておいても、いずれは討伐されるだろうが……被害も出るだろうし、早めに片付けるこしたことはないな。クローバー伯爵さえ良ければ、手伝ってあげてくれないか?」


「もちろん、構いませんよ。東の大貴族に貸しを作っておきましょう」


「それが良い……それにしても、ウルラ嬢が直接君に頼むとはね。何を考えているのかわからないな……」


「それは自分もですよ」


 アンドリューの頭を飛び越してレストに頼みごとをする理由がわからない。

 ラベンダー辺境伯家とは交流があるわけでもないし、何か理由があるのだろうか。


「そういえば……彼女がラベンダー辺境伯家の次期当主であると聞きましたが、随分と幼いですね?」


「ああ……彼女の祖父が現・当主なのだが、元々の後継者である御子息が行方不明になっていてね。もう十年以上も前だから、亡くなっている可能性が高いだろうな。母親もいないとのことだから、雰囲気が暗いのはそのせいかもしれないね」


「なるほど……」


 両親がいないということか。

 その境遇と性格が関係あるのかは不明だが……妙なシンパシーを感じてしまう。


(あんな小さい子供がラベンダー辺境伯家の代表として、危険な魔境開拓に参加しているんだ。ちょっとくらい、俺が気にかけてやっても罰は当たらないよな)


 レストは改めて、ウルラの力になってあげることを決めたのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る