第181話 元・父親を久々にざまあする
結界使いの魔術師であるジャラナ・メイティス、補佐という名の雑用係として連れてこられたルーカス・エベルンを加えて、レスト達は再びサブノック平原の中心部に向かうことになった。
「アンドリュー殿下も御一緒されるんですか?」
「ああ、今日は特別だからな」
さらに、アンドリューと護衛の騎士が数名ついてきていた。
護衛を率いているのはアンドリューの側近であり、生徒会の書記でもあるユースゴス・ベトラスである。
騎士科所属のユースゴスは鎧を着こんでおり、同じ鎧の騎士数名を引きつれていた。
「大規模結界を張る場面なんて、そう見られるものじゃない。是非とも、見学させてもらいたかったんだ……迷惑だったかい?」
「いえ、そんなことはありません」
アンドリューは開拓の総責任者である。
おまけに、平原中心部はアンドリューの領地になる予定だ。
自分の領地となる場所に同行したいという提案を拒む理由はなかった。
アンドリューはオープンタイプの馬車に乗り、隣にメイティスを乗せて同行するようだ。
本来、魔物の巣窟である魔境では馬などを連れていけないのだが……すでにあらかたの討伐が終わっているため、心配ないだろう。
「ハア……ハア……ハア……どうして、魔術師である私がこんなことを……」
そんな中。
これから魔境に入るという状況で、すでに一人が疲労困憊になっていた。
大荷物を背負わされた雑用係……ルーカス・エベルンである。
「レスト、アレは放っておいても良いのか?」
パーティーメンバーであるユーリが不思議そうに訊ねてきた。
「随分と疲れているようだぞ? 荷物持ちなら、私がやってもいいが……」
「いや、良いんだ。ユーリは周囲の警戒に専念してくれ」
事情を知らずに気遣ってくれるユーリに、レストは肩をすくめる。
「今日はアンドリュー殿下メイティス導師も一緒だからね。万が一があってはいけないから、いつも以上に注意してくれ」
「わかった。レストがそう言うのならそうしよう」
ユーリが素直に頷いて、「ムンッ!」と気合を入れて周囲に視線を巡らせている。
「ああ……アレが噂の……」
同じく、パーティーメンバーであるアイシスもまたルーカスに目を向けた。
ただし、アイシスの表情は侮蔑のものである。
どんな噂を聞いているのか……ルーカスのことを軽蔑しきった顔をしている。
「フン……」
リュベースもまた何かを察したのだろう。
皮肉そうに冷笑を浮かべて、ルーカスを一瞥した。
アーギルやレイルも周りの空気を読んで、あえてその荷物持ちに触れることはしなかった。
「ヒイ……ヒイ……」
「なるほどな……俺は意外と性格が悪かったらしい」
いつもより大所帯のメンバーで平原を進むことになった一行であったが……最後尾で荒い息を吐いている父親の姿に、レストは自分の新たな一面を発見する。
(この男のことなんてどうでもいい、二度と関わらなければそれで良いと思っていた……だけど、何故だろうな)
こうして、汗水たらして身体を引きずっている姿を見ると……胸がスッとしてくる。
(もしかして……俺は自分で気がついていなかっただけで、コイツのことを憎んでいたのだろうか……心のどこかで復讐を望んでいたのか?)
「どうだい、愉快だろう?」
そんなレストの内心を読んだわけでもあるまいに、馬車の座席からメイティスが横から声をかけてくる。
「別に復讐なんて欲しておらずとも、嫌な奴が罰を受けているのは愉快なもんさ。若造が格好をつけて、『自分はもう恨んでいない』なんて達観しなさんな」
「導師……」
「何もかも投げ捨てて、無関係な人間を巻き込むような復讐は後ろ向きだからやるべきじゃないさ。だけど……これくらいの仕返しをしてやろうっていうのは、むしろ前向きだとババアは思うがね」
メイティスが振り返ってルーカスを見やり、痛快そうに笑った。
「あの男はアンタを冷遇したせいで、宮廷でも居場所がなくなっている。ローズマリー侯爵家の次期当主、国王陛下の覚えめでたき伯爵様を虐待してきたなんて、そんな沈む船に関わりたいなんて誰も思わない。面倒な汚れ仕事ばかりを押しつけられて、周りからも白い目で見られているよ」
「…………」
ルーカスがそんな状況になっているなどとは、思わなかった。
跡継ぎを失って意気消沈しているだろうとは察していたが……それ以上に酷い有様だったようである。
「名誉子爵家を維持するため、宮廷魔術師になれる才を持った子供を養子にしたがっているようだけど……あの様子だと無理だろうねえ。あの男がダメな父親であるとは、もう知れ渡っている。魔法の才能がある貴重な子供を譲り渡す奴なんているもんか」
「な、なるほど……」
「アンタはざまあみろって笑ってやれば良いんだよ。もしくは、母親の墓参りの時にでも報告してやんな」
「ヒャヒャヒャッ」とメイティスが魔女のように笑うが……ふと、真顔になって明後日の方向に目を向ける。
「どうかされましたか、導師?」
「いや……ちょっと、不躾な人間がいたようだからねえ。まったく、粘着質な小娘がいたもんだよ」
「…………?」
レストは怪訝そうに首を傾げるが、メイティスからそれ以上の説明はなかった。
「ヒイ……ヒイ……」
もう一度、汗だくの父親の方に視線を向けて、「フム……」と顎に手を添える。
(そういう考えもあるか……王都に戻ったら、母に報告してみるか)
もしかすると、母親も墓の下で笑ってくれるかもしれない。
レストはそんなふうに考えて、小さく吹き出したのであった。
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【タイトル】
妹ちゃんの言うとおりに戦っていたら王様になりました。無理やり妻にした姫様が超ニラんでくるんだけど、どうしよう?
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