第180話 伝説の魔術師と会いました
「ジャラナ・メイティス師……もしかして、『断空のメイティス』ですか!?」
老人の名前を聞いて、レストが大きく目を見開いた。
『断空のメイティス』は最古参の宮廷魔術師であり、少なくとも七十年以上前からアイウッド王国に仕えている人物だった。
結界術に関しては賢者であるヴェルロイド学園長すらも上回るとされている。
かつて隣国との戦争では要塞を一つ結界で囲み、兵を一人も死なせることなく一ヵ月間耐えきったという伝説的な逸話で知られていた。
完全に空間を断ち切る結界術の使い手……それ故に『断空』の異名で呼ばれているのだ。
「伝説級の魔術師にお会いできて光栄です。自分の名前はレスト・クローバーといいます」
「フン……ババアへのお世辞が上手いじゃないか。口の上手いガキは嫌いじゃないよ」
どうやら、第一印象は良好だったらしい。
メイティスが杖の先で地面を叩いて、鼻を鳴らす。
「コレの息子だと聞いていたから、どんなものかと思ったが……なかなか見所があるじゃないか。父親とは大違いだよ!」
「ウッ……」
メイティスが再び、杖でルーカスを叩いた。
ルーカスは屈辱に顔を赤くしながら、それでも立場の違いから抵抗することなく黙り込んでいる。
「メイティス師が魔境の結界を張ってくれることになったんだ。エベルン卿は補佐だよ」
「ああ、そうなんですか」
アンドリューの言葉にレストは胸を撫で下ろす。
まさか、この父親が結界の構築という重要な役割をするのかと戦々恐々だったのだ。
ルーカスはあくまでも補佐。結界を張るのは最高の結界使いであるメイティスということならば、とりあえずは安心である。
「ババアは色々と手間をかけちまうんでね。暇そうにしてたコイツを連れてきたってわけさ」
メイティスがコツコツとルーカスの脛を杖で突きながら、意地悪そうに言う。
「何でも……この男はアンタを長年、甚振ってきたそうじゃないかい。見限ったはずの息子が立派になったのを見て、さぞや心中穏やかじゃないだろうねえ。ざまあないことだよ!」
「ウ……グウ……」
魔女のように笑うメイティスに、ルーカスがこれでもかと表情を歪めた。どうやら、図星だったようである。
(どうして、この男がいるのかと思ったら……まさか、導師の意地悪かよ……)
アンドリューの采配にしては無神経だと思ったが、それならば納得である。
「コイツには雑用全般を任せているから、アンタも好きに使ってやりな! 所詮は名誉子爵。おまけに跡継ぎのいない没落予定だからねえ! 遠慮することはない、どんな扱いをしてやってもババアが許すよ!」
「それはどうも……お気遣い、感謝いたします」
かなり良い性格をしているメイティスに苦笑しつつ、レストは人生で初めて毒親であるルーカスに同情の念を抱いた。
いかにろくでもない父親であったとはいえ……こうも縮こまっているところも見せられると、哀れにもなってくる。
(まあ、全て自業自得なんだろうけど……せめて、母が病気になった時に手を差し出してくれていたらな)
母親が病気になった際、治癒魔法では回復不可能な病をどうにかするためにレストは奔走したものである。
その際、母の友人であったメイドを通してルーカスにも金の無心をしたのだが……すげなく断られている。
(過去をほじくり返すつもりはない。仮に薬を買う金がもらえていたとしても、余計に苦しむ時間を長引かせてしまっただけかもしれない)
それでも……慈悲を持たない人間に差し伸べる救いの手はない。
レストは仏ではないのだ。地獄に落ちた亡者に糸を垂らすようなことはできなかった。
「それじゃあ、さっさと行こうかい。結界を張るポイントに案内しな」
「はい、畏まりました……エベルン卿、あちらに荷物があるのでお願いしますね」
「なっ……わ、私がかっ!?」
「はい、もちろんです」
レストはニッコリと笑って、愕然とした様子の父親に告げる。
「魔境では魔力を温存しないといけないので、魔法は使わずに背負ってくださいね?」
「ッ……!」
ルーカスがパクパクと魚のように口を動かす。
レストはささやかな仕返しとして、ルーカスに重い荷物を担がせてやるのであった。
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【タイトル】
妹ちゃんの言うとおりに戦っていたら王様になりました。無理やり妻にした姫様が超ニラんでくるんだけど、どうしよう?
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