第171話 そして、一か月後

 それから一ヵ月、魔物を倒しながら地面を舗装していく作業が続いた。

 何日も何日も。平原中心部で魔物を倒して、地面を舗装していく工程を繰り返す。

 幸いにして、しっかりめに地面を固めておけば、そこから新たな雑草が生えてくることはなかった。

 おまけに、石で舗装した場所には魔物が入ってくることはなかった。

 もしかすると、レストの魔力が残っていて魔物避けになっているのかもしれない。


 平原中心部は全てというわけではないのだが……かなりの部分で異常繁殖した雑草が消し去られ、ここに新たな町を築くための土台が作られた。


「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「【雷砲】!」


 現れた腐食獣にアイシスが雷を浴びせかける。

 煌めく雷撃が腐食獣を一瞬で焼き尽くし、無残にも黒焦げに変えた。


「フウ……これであらかた、倒し終わったかな?」


「ええ、いい加減、コイツらもいなくなったでしょう」


 アイシスの言葉にレストが答える。

 平原中心部を住処にしていた腐食獣であったが……ほとんどを討伐することができたはず。

 一部、この地から逃げ去ったものもいるだろうが……少なくとも、開拓の障害になることはないだろう。


「かつては平原を支配して、幾度となく開拓団を追い返してきたサブノックの眷属が……随分とあっけないものですね」


 などと言ったのは、久しぶりに口を開いた神官のレイルである。


 サブノックと腐食獣は過去に何度となく、平原を開拓しようとした者達を壊滅に追いやっていた。

 そんな彼らも落陽の時を迎えている。

 親玉であるサブノックが斃されて、こうして開拓団によって次々と討伐されて……もはや、この地に彼らの居場所はないだろう。


(驕れる者は久しからず。ただ春の夜の夢のごとく……か。どんなに強い奴だって、終わるときは終わるんだな)


 倒れている腐食獣の死骸を見下ろして、何となくしんみりとした感情に襲われる。

 ローデルもそうだったが……どれほどの強者であっても、終わるときは終わる。死ぬときは死ぬ。

 そして……それは明日の我が身なのかもしれないのだ。


「気をつけよう……命大事にだ」


「レスト、どうかしたのか?」


「いや……どうもしていないよ」


 ユーリが首を傾げて訊ねてきたので、手を横に振って答える。


「そんなことよりも……開拓もかなり進んだんじゃないか? 魔物も減ったし、強い物はあらかた倒してしまっただろう」


 平原中心部はサブノックと腐食獣の天下だった。

 彼らが倒されたことにより、強力な魔物はいなくなっている。

 この様子ならば、新たな魔境の主が生まれることもないだろう。


「俺達の仕事もそろそろ、終わりかな? あとは専門家が結界を張って魔力を吸収すれば、ほどよく落ち着くはずだ」


「意外と、あっさりと片がついたな」


 リュベースが物足りなさそうに腕を組む。

 魔境中心部の開拓はそれなりに難しい仕事だったのだろうが、時間がかかっただけで難なく終わろうとしていた。

 特にピンチを迎えることもなかった。


「問題があるとすれば……東側にある湿地帯でしょうな」


 騎士のアーギルが口を挟む。

 辺境中心部から少し外れて、東側には湿地帯がある。

 泥沼のような地形が広がっており、そこはまだ手つかずで残っていた。


「うーん、あそこの調査もいずれはすることになるんだろうな。まあ、アンドリュー殿下の指示を待ってになるだろうけど」


 湿地帯は平原とは環境も異なっているため、腐食獣とは異なる魔物が棲みついている可能性があった。

 もしかすると……サブノックに匹敵する魔物がいる可能性もなくはない。


(ローデルがサブノックを刺激した時にも、腐食獣は真っすぐに西に向かってきていた。東の湿地帯を避けて。単純にローデルがそっち側にいたからというのが理由だろうが……)


 サブノックにとって、湿地帯は通りたくない場所だったのかもしれない。

 それが泥で足が汚れるのが嫌だとかいう、可愛らしい理由ならば良いのだが……。


「よし、今日もこれくらいで引き上げだ。みんな、ご苦労様」


 レストは仲間達を労って、平原中心部を後にしたのであった。

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