第169話 開拓二日目ですが……?
魔境開拓二日目。
やるべきことは同じである。
レストはヴィオラやプリムラを残して、昨日と同じパーティーで平原中心部へと向かった。
一度、取っているルートを通るだけのこと。初日よりも短時間でそこに到着することができた。
「これは……!」
しかし、レスト達はすぐに足を止めることになった。
そこには昨日と同じ光景が広がっている。
昨日と同じ光景……つまり、異常成長した草木が生い茂り、平原でありながら森のようになっている景色である。
「燃やしたはずの草が元通りになっている……たった一晩で……?」
そう……レストが魔法で燃やした草が身長の高さまで成長していた。
いくら雑草の成長が早いとはいえ、やはりこれは異常である。
「これが魔境ということか……とんでもないな」
レストが溜息を吐いた。
その背後でリュベースとアイシスが難しい表情で生い茂った草木を見つめており、ユーリが愉快そうに草を千切っている。
「これは……どうするつもりですかな、クローバー伯爵」
溜息交じりに、騎士のアーギルが訊ねてくる。
「これではアンドリュー殿下からの命令を果たすことができません。これだけ草木が育っていたら、調査にも魔物の間引きにも支障が出てしまいますからな」
アーギルの言うとおりである。
レスト達に与えられた命令は平原中心部の調査、そして魔物の討伐だった。
しかし、これだけ草が生えていると視界も悪くなり、地形も魔物の姿もよく見えない。
「これは王子に報告するとして……どうやら、一手間を加える必要がありそうだな」
「手間をかけてどうにかなるのかよ。これ、思った以上に面倒そうだぜ」
リュベースが剣を抜いて、雑草をまとめて斬った。
切断された草の断面から、金色の魔力の粒がポロポロとこぼれる。
「見ろよ。斬った部分がもう再生を始めている。数時間で元通りに戻っているだろうな」
リュベースが刈った雑草を見下ろして、眉間にシワを寄せる。
切断された草の断面はゆっくりと……言われなければ気がつかないような速度ではあったが、すでに修復が始まっていた。
昨日のように焼き払ったとしても、根がわずかでも残っていれば再生することだろう。
「結界を張って龍穴の魔力を消耗するまで、どうにもできないんじゃないか?」
雑草が異常成長している原因は、龍穴から噴き出す膨大な魔力である。
この魔力を抑えるためには、特殊な結界を張って魔力を消耗させるしかない。
反対に、結界さえ張ってしまえば疫病や災害が起こりにくい都市として、発展を遂げることだろう。
「まあ、長期的に見ればそうだろうが……短期的な問題であれば方法はあるさ」
レストは生い茂る雑草に向けて手をかざして、魔法を発動させる。
「【
荒れ狂う炎が雑草をまとめて焼き払い、草木の生えていない更地を生み出した。
ここまでは昨日と同じである。工夫をするのはここからだ。
「【
地面に向けてさらに魔法を発動させる。
土の地面が陶器のように固くなっていく。
「おお、固くなった!」
「へえ……地面を固めて、草が生えないようにしたのか」
ユーリが驚いた様子で地面を何度も踏みしめて、アイシスも感心した顔になっている。
地面の中には燃やしきれなかった雑草の根が入っているだろうが、ここまで地面を固くしてしまえば芽を出すことはあるまい。
「とはいえ……植物の生命力を舐めてはいけないな。ダメ押しをしておこう」
さらにレストは魔法を発動。
次に使ったのは【石壁】という魔法である。文字通りに石の壁を出現させるというものだった。
石の壁を地面に倒して、地面を舗装する。
雑草は時にアスファルトを突き破って生えてくるほど生命力が強いが……ここまでやっておけば、さすがに芽を出すこともあるまい。
「確かに、これならば雑草は生えてくることはないでしょう……しかし、魔力は大丈夫ですか?」
などと言ってきたのは、最後尾にいた神官のレイルである。
このパーティーでは活躍する機会が少なく、影が薄かったレイルが控えめに意見を述べてきた。
「クローバー伯爵の魔力がとても多いことは、昨日も見せていただきましたが……ここまで連続して魔法を使ってしまえば、いくらなんでも魔力が尽きてしまうのでは?」
「あー……まあ、大丈夫でしょう。やるだけやってみますよ」
レストは曖昧に言葉を濁す。
レストの魔力量は無限なので、まったく問題はないのだが。
「そうですね……魔力量のことは気にしないでください。ただし、俺はこちらの作業に集中させてもらいますから、皆さんは魔物への警戒をお願いします。他に手を回す余裕はなさそうなので」
「……まあ、クローバー伯爵がそう仰るのなら」
レイルが引き下がる。
このパーティーにおける隊長であり、伯爵でもある。
意見を述べることはしても、逆らうつもりはないようだ。
「レストには決して魔物は通さない。安心してくれ」
「草木は元通りになっても、死んだ魔物が生き返るということはないだろう。昨日よりは楽なはずだ」
ユーリが頼もしいことを言って胸を張り、アイシスも周囲の草木から魔物が飛び出してこないか見張りを始める。
「フン……」
リュベースも肩をすくめて剣の柄に手を添える。
アーギルとレイルは若者から少し離れた場所で、周りを警戒していた。
「それでは、よろしくお願いします」
仲間達が配置についたのを確認して、レストが炎で雑草を焼き払う。
手間がいくつか増えたおかげで時間はかかったが……それでも、アイシスが指摘していたように魔物の数は昨日よりも減っていた。
牛歩のようにゆっくりとした足取りではあったが、確実に魔境の開拓を進めていったのである。
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