第168話 外で朝食を食べます

 レストが地表に下りてきたタイミングで、テントの中からヴィオラとプリムラが顔を出した。


「ああ、レスト。おはよう」


「おはようございます。早いですね」


「ああ、おはよう。早く目が覚めてしまってね。ちょっと散策していたんだ」


 ヴィオラとプリムラは寝乱れたネグリジェから着替えている。

 おかげで目のやり場に困ることもなく、普通に会話をすることができた。


「それじゃあ、朝食の準備をしますね……ユーリさんが目を覚ます前に」


 プリムラがテントの奥をチラチラと見つつ、どこか怯えたように言ってくる。


「ああ……ユーリはまだ寝ているんだな」


「はい……どうやら、ユーリさんは朝は弱いようです」


「まあ、イメージ通りだけどな。少しも意外性がない」


 ユーリがお寝坊さんなのはとても「らしい」気がした。

 朝食の準備にユーリが加わればまた話がややこしくなることだし、起きてくる前に朝食を作ってしまった方が良いだろう。


「別に二人が準備しなくても、頼めば給仕がやってくれると思うけどな」


「まあ、それは私もそう思うけどね」


 ヴィオラが苦笑しつつ、肩をすくめた。


「せっかく、レストの手伝いに来ているわけだからね。自分達でやれることはやった方がいいでしょう?」


「すぐに準備しますから、レストさんは待っていてくださいね」


 ヴィオラとプリムラが魔法で火を熾して、朝食の支度を始めた。

 フライパンに卵を落として、黄身が良い具合に固まってきたらベーコンを投入。塩コショウで味を調ととのえる。

 そして……別で焼いていたトーストの上にベーコンと目玉焼きを一緒に載せる。


「おお、飯テロセットだ」


 目玉焼きとベーコンのトースト。

 海外のアニメとかで出てくる、すごい美味しそうなやつだった。


「ふあ……みんな、おはよう」


 朝食ができたタイミングで、ユーリが欠伸をしながら現れた。

 こちらは着替えをしておらず、まだネグリジェ姿である。

 さすがに下乳は見えていないが……それでも、可愛らしいヘソが見えてしまっていた。


「良い匂いだな……朝食がもうできているのか?」


「ああ、おはよう。ユーリ……って、なんて格好しているのよ」


「ユーリさん、すぐに準備できますから着替えてきてください」


「そうしよう……ああ、レストもおはよう」


「……おはよう」


 ユーリのヘソから目を背けながら、レストも挨拶を返しておいた。

 少しすると、今度こそ着替えを済ませたユーリがテントから出てくる。

 四人が焚き火を囲んで椅子に座って、朝食にありついた。


「美味い……!」


 トーストを一口噛んで、レストは素直な感想を漏らした。

 塩コショウで味付けしただけなのに、不思議なほどに深みのある味わいだ。


(この世界って、日本よりも卵がなんかこう……濃いんだよな。味付けが薄くても十分に満足できる食べ応えだ……!)


 卵を産むニワトリの品種が違うのだろうか。

 濃厚な卵で作られた目玉焼きはとても美味であり、ベーコンの旨味に負けていない。


「ハフ、ハフッ……」


 レストの向かいでは、ユーリも夢中になってトーストを齧っていた。


「美味しいな……コレ。そんなに複雑そうな料理ではないのに、とても美味しい……!」


「気に入ったみたいですね、ユーリさん」


「ああ、とても好きだ」


 プリムラの問いに、ユーリがコクコクと何度も頷いた。


「卵は私も好きだが……基本的に生が茹でるかでしか食べたことがないからな。こんな調理方法があるとは知らなかった」


「こ、今度、教えてあげますね」


「ああ、嬉しいよ」


 顔を引きつらせるプリムラに、ユーリが無邪気な笑みを浮かべている。

 ユーリは学生寮で自炊しているとのことだが……彼女の調理方法は全体的に大雑把で男前な物。

 焼くか煮るかといった程度しか調理方法の選択肢がなかった。


(それでも、昨日のステーキは美味かったし……たぶん、経験が浅いだけで才能はあるんだろうな……)


 ヴィオラやプリムラから習えば、きっと上達することだろう。

 そういう意味でも、このキャンプはユーリにとってタメになるかもしれない。

 レストはそんなことを思いながら、トーストにかぶりついたのであった。

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