第158話 初日の調査が終わります
「【火嵐】!」
異常成長した丈の高い草を焼き、レスト達は魔境の中心部を進んでいった。
進むにつれてどんどん大気中に含まれる魔力が濃厚になっていき、あまりにも強い魔力に胃の中身がむせ返りそうである。
「すごいな……魔境の魔力はこれほどまでに凄まじいのか……」
アイシスが顔を青ざめさせて口を押さえている。
他のメンバーもまた声に出してこそいないが、同じような顔をしていた。
アイシスの変化が顕著なのは、彼女がこのメンバーの中でもっとも魔力の感受性が良いのだろう。
魔法使いとしては得難い才能なのだろうが……その分、魔境の魔力にも鋭敏に反応してしまっている。
「大丈夫ですか、アイシス先輩」
「ああ、ありがとう。ユーリ」
ユーリがアイシスに肩を貸している。
脂汗をかいているアイシスとは反対に、ユーリは平然とした様子だった。濃厚な魔力の影響もさほど受けてはいないように見える。
生来の魔力量が少なくて身体能力が高いために、環境の変化に対して鈍感でいられるようだ。
「それにしても……随分と酷い環境だな。本当にこんな場所に町を作れるのか?」
「このままでは、普通に住むのは無理でしょうね」
アイシスの問いにレストが答えた。
アイシスほどの感受性がなかったとしても、魔境の中心部にいれば魔力の影響は避けられない。
このままでは、町を築いて住むことは不可能である。
「このままでは住めないですが……本格的に開拓が始まったら、結界術に長けた宮廷魔術師が魔除けの魔方陣を設置するために送り込まれるはずです。結界を展開するのに魔力を消費すれば、空気中の魔力もマシになるでしょう」
「結界で魔境の魔力を消耗させて、環境を変えるということか……なるほどな」
「レストが結界を作ることはできないのか?」
「できないよ。そんな高等技術は」
首を傾げるユーリに、レストが苦笑して肩をすくめる。
レストは結界を展開することができない。
魔力量や技術の問題ではなく、純粋な知識不足だった。
学園の授業でも結界術を学ぶことができるのだが、魔境に設置する結界はそこで習うものとは桁違いに高度なものである。
「俺達がやるべきことは調査と露払い。後からここに来る方々がやりやすいように、地形などの調査と魔物の討伐をすることですからね」
適当に平原を焼いてから、レストは【浮遊】と【風操】を駆使して空に舞い上がる。
上から平原を見下ろして、地形を簡単にスケッチして記録しておいた。
「さて……これで今日の調査は終わりかな。かなり大雑把ではあるけれど、魔境中心部の地形は把握できた」
かなりの数の魔物を倒し、平原を焼いて土地を切り拓いた。
もちろん、広い平原から見れば微々たるものであるが……初日の成果としては十分だろう。
「それでは、今日はこれくらいにして平原の入口に引き返しましょう。夜になってしまったら大変ですからね」
魔境において、夜が来るというのは死にも等しいことである。
暗闇で魔物から襲撃を受けたら致命的だ。ましてや、この辺りは濃ゆい魔力のせいで【気配察知】が利かない。
日が暮れるまでには引き返さなくては命にかかわる。
手間はかかるのだが……何日かに分けて調査を行っていくしかなかった。
「帰りは行きよりも早く帰れるでしょう。草を焼いたから移動もしやすくなっていますから、明日以降の調査もはかどるはずです」
「次に来るときまでに、新しい草が生えていないと良いんだがな」
リュベースが皮肉そうに肩をすくめる。
本来であればそこまで早く草木は育たないだろうが、魔境であればあり得なくもない。
極端な話であるが……明日、またやってきた時には、元通りに身長の高さの草木が生えそろっている可能性もあった。
「まあ、その時はその時に考えよう。それじゃあ、引き返して……」
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAA!」
引き上げようとするレスト達であったが……直後、獣の絶叫がこだましてくる。
地の底から響いてくるような不気味な鳴き声。聞き覚えのある絶叫だった。
「この鳴き声は……!」
「警戒しろ! 来るぞ!」
アーギルが叫んで、剣を構える。
アイシスとユーリも臨戦態勢をとって、リュベースが無言で剣の柄を握りしめた。
「【火嵐】!」
レストが先んじて魔法を放った。
草木が焼かれ、その中から大きな魔物の影が飛び出してくる。
「やはり……サブノックの眷属か!」
現れたのは青白い体毛を逆立て、口から腐敗の唾液を垂れ流した邪獅子。
象ほどの体躯がある六本足で複眼の魔物。
レストが討伐したサブノックと同種の魔物。『腐食獣』がレスト達の前に飛び出してきた。
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