第157話 魔境を焼きます

 サブノック平原中心部の調査をすることになったレスト達一行であったが……思わぬ障害が立ちふさがっていた。

 その障害とは魔境の魔力によって強化された魔物……ではなく、異常繁殖したただの雑草である。

 成人男性の身長の高さがある雑草は視界を覆って魔物の姿を隠し、おまけに大量の魔力を孕んでいるため【気配察知】の魔法を阻害していた。

 このままでは、敵の奇襲を防ぐことができずにやられたい放題である。

 過酷な自然環境という大いなる敵がレスト達の行く手を遮ろうとしていた。


「……まあ、焼けば済むんだけどな」


 言いながら……レストは周囲の草むらを焼き払っていく。


 上級魔法【火嵐ファイアストーム


 広範囲の火魔法によって草むらを焼き払い、魔境の中心部を拓いていく。

【天照】はあえて使わない。太陽光を集めることで周りが暗くなってしまうので、魔物から奇襲を受けるリスクがあるからだ。


「凄まじいな……」


「レストはやっぱりすごいね。こんなことまでできるだなんて」


 炎で草むらを焼き払っているレストの後方にて。

 アイシスが畏怖を込めた目で、ユーリが素直な称賛の目で、それぞれレストのことを見つめている。


「……まあ、これくらいはやってくれないとな」


「…………」


「…………」


 リュベースは腕を組んで「フフン」と鼻を鳴らしながら、周囲を警戒していた。

 他の二人……王宮から派遣された騎士のアーギル、神殿から派遣された神官のレイルは言葉を失って、唖然と立ちすくんでいる。


 レストは火の上級魔法を何発も撃って、周囲の草むらをどんどん焼いている。

 ちなみに……こうして草木を焼くことについて、事前に開拓団のリーダーであるアンドリュー・アイウッドから許可を貰っていた。

 そもそも、この場所は開拓後は町を建設する予定となっている。

 魔境の魔力を利用することにより、通常よりも豊かな都市を築くことができるためだ。

 町を建設するためには、どちらにしても草木やそこに住んでいる魔物は邪魔になる。

 レストが焼き払ってくれるのなら、アンドリューとしてもそちらの方が助かるのだろう。


「上級魔法をあれだけ使って、少しも魔力の底が見えない……やはり、この男は私の理想の……」


 アイシスがゴクリと唾を飲んで、レストの偉業に見入っていた。

 上級魔法は魔法科の上級生であっても、二、三発撃つのが精一杯という強力な魔法である。

 魔力消費量が大きいはずの上級魔法をレストは二十発以上も放っていて、それでいながら魔力が尽きる様子はなかった。


「ガアッ!」


「ギャウギャウッ!」


 炎に焼かれた魔物が草むらから飛び出してくる。

 魔物はレストに向かってくる者もいれば、そのまま逃げ出そうとする者もいた。


「【雷砲サンダーボルト】」


「えいっ!」


 レストに襲いかかろうとしている魔物をアイシスが即座に撃ち抜く。

 逃げようとする魔物はユーリの蹴撃によって頭蓋を砕かれ、地に沈む。


「フン……雑魚め」


 リュベースが剣を振るい、魔物を両断した。

 四人が危なげなく魔境中心部を切り拓いていき、順調に進んでいった。


「クソ……マジかよ……」


 その後方で、アーギルが悔しそうに拳を握りしめていた。

 先ほどから四人の若者ばかりが活躍しており、ベテランの騎士であるはずのアーギルにはほとんど戦果を挙げる機会が回ってこなかった。

 勘違いしそうになるが……アーギルは決して無能というわけではない。

 親戚が反乱に加担するという不運に恵まれたものの、実力は本物。だからこそ……汚名をすすぐ機会として、今回の仕事を任されたのだ。


(未熟な若造の尻拭いをしてやるつもりで来たってのに……コイツら、そろいもそろって化物かよ!?)


 無限の魔力を持っているレストだけではない。

 アイシスの魔法の発動速度、ユーリの身体能力はアーギルが動くよりも先に敵を片付けてしまう。

 リュベースの剣技も二人に負けておらず、おまけに騎士であるからこそわかってしまう。

 リュベースが武術において、自分よりも高みに立っていることに。


(コイツら、本当に学生なのか!? ちっとも、前に出るチャンスが来ねえじゃないか……!)


 親戚のせいで吹っかけられてしまった汚名を返上するため、起死回生と思って危険な仕事に参加したというのに、若い才能に圧倒されるばかり。

 少しも活躍する機会が回ってこない。完全な足手まといではないか。


「畜生……このままじゃ……!」


「それにしても……本当に助かりますよ。アーギルさん」


「あ?」


 焦るアーギルに、手を止めたレストが話しかけてくる。


「貴方が背後を警戒してくれて、回復役であるレイルさんを守ってくれているおかげで、俺は背中を気にすることなく前に意識を集中させることができます。率先して地味な仕事を引き受けてくれて、本当に頭が下がりますよ」


「あ、ああ。そうだ……いや、そうですな!」


 レストが伯爵であることを思い出して、アーギルが口調を改める。


「地味な仕事は私のような人間が進んでやらなければいけませんからな! 若者のフォローは年長者の務め。どうか気にしないでくだされ!」


 どうやら、レストの言葉に乗ることにしたようである。

 若者のフォローのためにあえて後ろに控えている……それならば、前で出ることができない面目も保たれる。


「後方は私に任せてください。皆は引き続き、前方を頼みますぞ!」


「はい、頼りにさせてもらいます」


 機嫌を直してくれた様子のアーギルに、レストが顔を見られないように前を向いてほくそ笑んだのであった。






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