第154話 開拓が始まります
こうして……紆余曲折はあったものの、本格的にサブノック平原の開拓に着手する時がやってきた。
開拓の総指揮をとるのはアンドリュー・アイウッド第二王子。
その補佐には、レスト・クローバー伯爵とヴィルヘルム・リュベース子爵、アイシス・カーベルト男爵が就いている。
開拓の参加者として……レストが集めた魔法科の生徒、リュベースやアイシスが集めた騎士科の生徒、そしてアンドリューが文官科と神官科の生徒を集めてくれた。何故か、誘ってもいない芸術科の生徒もいたが。
そこに他の貴族家や王宮から送られてきた支援者が加わっており、千人近い人数が集まっている。
「さて……それでは、これよりサブノック平原の開拓に着手する。事前に配布した資料は読んでくれていると思うが……割り振られた仕事に全力で当たってもらいたい」
平原の入口に並んでいる開拓団を前にして、アンドリューが口を開く。
「まず、前衛組は魔物の掃討。小隊ごとに担当区域内にいる魔物の討伐を行ってくれ。やることは魔猟祭と同じだが……今回は競争じゃない。必要に応じて、他の小隊と連携を取りながら仕事にあたってもらう」
前衛組として、魔法科と騎士科の生徒がいる。神官科の生徒も医療スタッフとして参加している。彼らは王宮から派遣された騎士の指導を受けつつ魔物と戦うことになる。
「後衛組は前衛組が倒した魔物を回収して解体。商業ギルドに素材を売却する手続きを行ってもらう。また、物資の購入や魔物の掃討が済んだ地域の調査もだ。地形や水源の有無、
後衛組は文官科の生徒が中心。
彼らは王宮から送られてきた文官から指導を受け、学びながら仕事に従事する。
「それから、芸術科の生徒だが……君らは何をしに来たんだ?」
アンドリューが集まった開拓団の一角に目を向ける。
そこには、ペンやらキャンバスやらを手にした芸術科の生徒がいた。
「我々は人間の手によって切り拓かれる大地を、滅びゆく魔物の楽園を芸術として残させてもらう。勝手にやらせてもらうので気にしないでもらいたい」
「私は詩を書く参考にするために参りました。自然体の皆様を文章に描きたいので、どうか無視してください」
「……そうか」
芸術家風の男女の答えに、アンドリューが何とも言えない表情で頷いた。
何をやっているんだとツッコミたくなる気持ちもあるだろうが、歴史的事実が絵画や彫刻として後世に残されること自体は別に悪いことではない。
やめろと言っても聞かないのが芸術家である。アンドリューは早々に理解を放棄した。
「……まあ、魔物に襲われて怪我をしないようにしてくれ。もしものことがあっても自己責任だからな」
呼んでもいないのに勝手に来たのだから、迷惑だけはかけないでもらいたいものである。
「それじゃあ、そのように仕事にとりかかってくれ。それと……レスト・クローバー伯爵」
「はい」
アンドリューに呼ばれて、レストが応じる。
「君のグループには平原の中央部の調査をしてもらう。魔境の主であるサブノックは倒されたが、奴の眷属の魔物はまだ残っているだろう。無理に討伐しなくても良いから、個体数の調査や巣の場所などを調べてもらいたい」
群れの長が倒されたからといって、配下の魔物が全滅するわけではない。
すでに新しい長が生まれている可能性もある。もちろん、新しい長がサブノックほどの巨体に成長するには、まだまだ時間がかかるだろうが。
「サブノックの眷属以外にも、魔境の中央部には強力な魔物がいる可能性がある。くれぐれも、注意してくれ」
「はい、わかりました」
レストが頷いて了承する。
これが領主として、伯爵としての初仕事だ。
(俺の家族が住むことになる土地の開拓……気合を入れてやらないとな)
レストは拳を固く握りしめる。
王家から厄介事ばかりを押しつけられている自覚はあるが……これも未来の家族のため。
前世で焦がれるほどに求め、手に入らなかった温かな家庭を手に入れるために必要な仕事である。
「全力を尽くします。どうぞ、ご期待ください!」
いつになくやる気をみなぎらせて、レストは堂々と胸を張ったのである。
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