第144話 学園で人材発掘します

「レスト、気をつけてね!」


「レスト様、離れないでください!」


 学園に行くことをヴィオラとプリムラに伝えたところ、二人はすぐさま自分達も行くと主張してきた。

 学園に着いてからはレストから離れることなく、まるで要人を警護するSPのようにピッタリと張り付いている。


「えっと……猛獣の檻の中じゃあるまいし、そんなにくっつかなくても……」


 レストが困ったように苦笑いをする。

 本日、学園にやってきたのは、領地開拓のための人材をスカウトするためだった。

 すでに校内に入り、校舎に向かって敷地内を歩いているところなのだが……何故か、ヴィオラとプリムラが過剰な反応をしている。


「えっと……女子生徒が近寄って来るのを警戒しているのか?」


「そうよ……どこから近寄って来るかわからないから、注意しなさい!」


「お姉様、右手の校舎の陰……女子が二人いますよ!」


「了解! 後ろからも三人来ているわ。気をつけて!」


「君ら、暗殺者とか警戒してるの? やり過ぎじゃない?」


 どれだけ、レストに女が近づくのが嫌なのだろう。

 嫉妬される身としては……愛されているなあと嬉しく思わないこともないのだが。


「……別に良いのよ。妻や妾が増えるのは。私だって貴族の女だし、レストは強くてすごいから」


「そうですよね……問題なのは、取るに足らない女性が近づいてくることです」


 ヴィオラとプリムラがいつになく真剣な表情で言ってくる。


「政治的に役に立つ女性、優秀でレストの力になってくれる女性ならオッケーなのよ。別に近づいてきたって」


「問題なのは……ただ、金目当ての妾狙いですよね」


 ヴィオラが注意深く周囲を睨みつけて、プリムラが頬を膨らませる。


「レスト様を誘惑して、囲ってもらって……それでお金だけもらおうとか、ドレスとか宝石とか御屋敷とか買ってもらおうって、そういう女性が集まってきたら困るんですよ。レスト様を堕落させるだけの女性に近づいてもらっては困ります!」


「あー……確かに、そういう人もいるかもな」


 今のレストの懐には、町ごと女性を囲えるような大金がある。

 肉食系の女子諸君にしてみれば、さぞや美味しい獲物に見えているに違いない。


「……気をつけるよ。おかしなハニートラップに引っかからないように」


「ええ、そうして頂戴。ところで……これから、どうするの? 教室に行く?」


「そうだな……昼休みまで食堂で待とうか。この時間の授業を取っていない生徒もいるだろうから」


 すでに学園の授業は再開されているが……参加するつもりはない。

 レストはもう伯爵だ。貴族の一員となった以上、領地の開拓と経営を優先させる必要がある。

 もちろん、学園から許可はもらっている。

 同じように家庭の都合で登校していない生徒は少なくないようで、学園に籍だけ置いてほとんど登校しない生徒もいるとのこと。

 登校しない代わりに、たっぷりと課題を出されてしまったが……こればっかりは仕方がない。

 むしろ……課題さえ送っておけば一日も登校せずとも『ちゃんと卒業した』という経歴も貰えるため、温情が過ぎるとすら思う。


(貴族の学校だからな……まあ、その辺りは色々と融通が利くんだろう)


「順番にスカウトしていこう。まずはクラスメイト。それから他クラスの同級生。上の学年と、他の学科の生徒。とりあえず……報酬を提示して、魔物退治をしてくれるように募集しようと思う。もちろん、学園の授業もあるから休日の間だけになるだろうけど」


 臨時のアルバイトでも良い。手伝ってくれる人間を広く募集してみよう。

 そうして活躍してくれた人間には、伯爵となったレストの臣下になってくれるように打診すればいい。

 前に学園に顔を出した際にも仕官希望者が話しかけてきたが……正直、大多数は成功者となったレストのおこぼれを受けようとする人間だろう。

 玉石混交となった人材の中から、実際に働いてもらって優秀な人間を取り分ける……これからレストがやろうとしているのは、つまりそういう作業である。


「私も淑女会を通じて、人を集めてみるわ。恋人や婚約者の仕官先を探している人もいるはずだから」


「私は生徒会に相談してみようと思います。役員の方々の伝手をあたってみます」


「生徒会……そうか。執行部の人間をあたる方法もあったな」


 生徒会執行部は王立学園の生徒の中でも、特に戦闘能力に長けたエリート集団だ。

 先日の魔猟祭でも、救助隊として活躍していた。


「彼らなら、魔物退治にだって慣れているだろう。後で声をかけてみようか」


 方針は決まった。

 後は実行するだけである。

 レストはヴィオラとプリムラに挟まれて、校舎の中に入っていった。

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