第137話 内乱の結果

 アイガー侯爵の乱。

 あるいは……『一日反逆』、『光罰の日』と呼ばれる内乱は終結した。


 王国軍十万。

 総指揮官は王太子であるリチャード・アイウッド。副官は騎士団長イルジャス・カトレイア侯爵。


 反乱軍七万。

 名目上の指揮官は第三王子ローデル・アイウッド。事実上の指揮官はベルリオ・アイガー侯爵。

 帝国軍が加担していたという話もあったが……反乱軍の一部に帝国人の傭兵がいただけで、明確な証拠は挙がっていない。


 王国軍の死者は四百人。怪我人は八百五十人。

 反乱軍の死者は一万二千五百人。怪我人は三万人超。離散した兵士は数え切れず。


 第三王子ローデル・アイウッド。

 王太后派閥の中心人物、ベルリオ・アイガー侯爵。

 そして……名前も知れず、身分を隠したまま戦いに参加していた帝国の兵士長。

 反乱を主導していた者達がこぞって倒されたことにより、アイウッド王国で起こった建国以来最大の内乱は鎮圧されることになった。

 結果は王太子率いる王国軍の圧勝。

 戦いの規模からしてありえない早さで、わずか半日での内乱終結である。


 反乱軍の事実上のリーダーであるアイガー侯爵が討たれたことにより、王太后派の貴族は次々と降伏した。

 侯爵家の屋敷も無血開城して、あっけないほどに侯爵領は王家の占領下におかれることになる。


 戦勝の知らせはすぐに王都に知らされて、そこから人の口と耳を伝って国中に広がっていった。


 この戦いによって名を上げたのは……まずは指揮官である王太子リチャード・アイウッド。

 真面目で実直、温厚な気質として知られていた王太子であったが、これまでは目立った功績もなく地味な王族だった。

 しかし、今回の圧倒的大勝により戦上手としても知られるようになり、王国の次代は安泰であると多くの国民が安堵することになる。


 続いて、副官であるイルジャス・カトレイア侯爵。

 元々、騎士団長として勇名を知らしめており、王国最強の武人であると名を馳せていた。

 今回の戦争で長年の宿敵であったアイガー侯爵を打ち倒し、『軍神』としての勇名を諸外国にまで広げることになった。


 そして……ダークホース。ある意味では、もっとも名を上げることになったのが新興貴族であるレスト・クローバー子爵。

 平民階級出身であったはずの少年が反乱軍との戦いで一番槍を見事に成し遂げ、おまけに旗印になっていたローデル・アイウッドを撃破した。

 ローデルが反乱軍に加わっていたことは表向き、公表はされていないものの……レストが誰よりも活躍したことは、戦いに参加していた兵士の誰もが証言している。

 その活躍ぶりはあまりにも大仰で作り話じみており、一部の貴族はあからさまなプロパガンダだと鼻で笑ったほどである。

 一方で、平民達は同じ平民から若き英雄が出たことを面白がり、レストの英雄譚を口々に語った。


 他にも多くの英雄がこの内乱によって生まれ、王太后に仕えている古き考えを持った貴族が一掃。

 アイガー侯爵を始めとして、反乱に加担した貴族は領地と財産を没収されて失脚。

 主犯格は残らず処刑され、反乱に加わっていなかった一族の人間は平民に落とされた。


 かくして、王太后の頃より政治の裏で暗躍していた宿老が滅び去り、アイウッド王国は新時代を迎えることになったのである。

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