第129話 神撃の結果

「よし……上手くいったな」


 自らの成果を確認して、レストはとりあえず安堵をする。


 太陽光を集約して射出するオリジナル魔法……【天照】。

 魔境の主ですら屠ったその威力はもちろんわかっていたが、実際に使命をやり遂げることができて胸を撫で下ろす。


 レストが放った光線は反乱軍の一部を焼き払い、そのまま敵の陣地を呑み込んだ。

 今回は軍勢が相手ということで、ある程度光を拡散させて範囲を広げている。

 集約を緩めた分だけ威力は落ちているが……それでも、敵軍の一割……兵士七千ほどが光に焼かれて倒れていた。


(全力で絞った威力ならば、跡形もなく焼失していただろうけど……これだけ範囲を広げると、この程度の出力になるか)


 雑兵であれば余裕で倒すことができるが……それなりに魔力が強い人間であれば、防ぐこともできるだろう。

 とはいえ、軍勢の一部が焼かれて本陣にまで攻撃が届いたことにより、反乱軍は蜂の巣をつついたようなパニックになっていた。

 この混乱は戦死者の人数以上の被害だ。ここで軍勢を投入して一気に攻め込めば、敵軍は総崩れになるに違いない。

 作戦は成功。一番槍としての役割は十分に果たすことができた。


「王太子殿下、騎士団長……これでよろしいでしょうか?」


「…………」


「…………」


 少し離れた場所で様子を見ていた指揮官二人に確認するが……リチャードもカトレイア侯爵も動かない。

 唖然としたような表情になっており、混乱する敵軍をまっすぐに見つめていた。


「あの……俺が攻撃したら、軍を動かして攻め込むんじゃなかったんですか……?」


「…………」


「殿下? 騎士団長?」


 何も言わず、ピクリとも表情を動かさない二人の様子に不安が募ってくる。

 もしかして……期待外れだっただろうか。

 予想を下回る威力に失望されてしまったのかもしれない。


「えっと……も、申し訳ありません! もう一発、もう一度攻撃のチャンスをください!」


「ん……あ、いやいやいや! 待て!」


 慌てて、もう一発【天照】をブチ込もうとするが……ようやく、動き出したカトレイア侯爵に止められる。


「十分だ! 貴殿の仕事はもう終わりで良い!」


「え? 良いんですか?」


「ああ。むしろ、これ以上活躍されると他の者達のメンツが……いや、何でもない。魔力を消費したことだろうし、下がって休んでおけ」


 カトレイア侯爵がコホンと咳払いをして、いまだフリーズしているリチャードの肩に手を置いた。


「王太子殿下……どうか、突撃の指示を」


「ん……あ、ああ! そうだな、そうだった!」


 リチャードが慌てて手を掲げて、兵士達に命じた。


「全軍、突撃! 動揺している反乱軍を打ち滅ぼせ!」


「「「「「…………」」」」」


 リチャードが叫ぶが……味方はなかなか動こうとしない。

 何故だかレストにはわからないが……リチャード、カトレイア侯爵と同じように石の彫刻のようになっていた。


「突撃! 敵を討ち取れ!」


 そんな中、一つの部隊が王国軍から飛び出して敵陣に斬り込んでいく。

 馬を駆り、突撃していく兵士達の先頭に立っているのはヴィルヘルム・リュベース。男爵を叙爵したばかりの『女嫌いの剣聖」である。

 リュベースの後ろに続いていく兵士は、彼が実家であるリュベース家から借り受けた兵士。そして、国王から与えられた報奨金によって雇われた傭兵だった。

 リュベースはこの場にいる兵士達の中でただ一人、レストがサブノックを打ち倒した場面を遠目ながら見ている。

 それゆえに、この場の誰よりも早く動き出すことができたのだ。


「つ、続け! 突撃!」


「若造に後れを取るな! 進め、征け!」


 リュベースに遅れて、次々と王国軍の騎士と兵士が突撃する。

 いまだ混乱収まらない敵地に乗り込んで、右往左往している反乱軍を次々と討ち取っていった。


「おお……すごいな。やる気満々じゃないか」


「どう考えても、すごいのは貴方だと思いますけどね」


 レストの横にディーブルが並んだ。

 レストにとっては魔法の師にあたる人物だが……先ほどの一撃を見て、感嘆よりも呆れたような顔をしている。


「……レスト殿。もはやローズマリー侯爵家だけではなく、多くの人間が貴方を放ってはおきませんぞ」


「何ですか、急に?」


 藪から棒な話である。

 ディーブルは急に何を言い出すのだろう。


「レスト殿の才能は私共が思っていた以上でした。国王陛下は新しい時代の象徴として貴方を押し出すつもりのようですが……形だけではなく、本当に次の時代の中心にいるのは貴殿なのかもしれませんな」


「大袈裟ですよ……ディーブル先生」


 レストは苦笑する。

 十分な活躍はしたと思っているが、そんな時代の英雄のような呼ばれ方をするほどではないだろう。

 リュベースを始めとして、これから活躍する人間はもっと現れるはず。


「さて……それよりも、ローズマリー侯爵家の兵士はここで見ていて良いのかな?」


 本陣を守っている後詰めの兵士を除いて、王国軍の大部分はこの隙に敵を討ち取らんと前線に出ている。

 そんな中、レストが名目上の大将を務めているローズマリー侯爵家の部隊はいまだに陣地にいて、前線に出ていなかった。


「うーん……正直、我々が活躍し過ぎることは望まれていないかと」


「そうなのか?」


「レスト殿が十分な戦果を出しましたからね……私共が何もしておらず恐れ入りますが、ここは他の部隊に手柄を譲って差し上げるべきかと」


「そうか……ディーブル先生がそう言うのなら、そうしておこうか」


 レストは丘から戦場を見下ろして、文字通りの高みの見物をする。


 王国軍十万。

 反乱軍七万。

 元より王国優位で始まった戦いであったが……レストの初撃によって、勝利の女神が掲げた天秤は王国軍の側に大きく傾いた。

 戦端が切られて半時間ほど経った頃には、反乱軍は最初の半分にまで減っていたのである。

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