第122話 王宮に招かれました
それから、数日後。
レストは送られてきた招待状を手に、王宮へと訪れた。
待ちに待った……というほど楽しみにしていたわけではないが、魔獣サブノックの討伐の功績により、叙爵される日がやってきたのだ。
後見人であるローズマリー侯爵家の馬車に乗り、レストは王宮に到着する。
着飾ることを好まないレストであったが……今日は特別な日ということもあって、貴族らしい上品な服に身を包んでいた。
隣に並ぶローズマリー姉妹も同様である。二人ともよそ行きのドレスを着ていて、とても華やかだった。
「さあ! とうとう、この日がやってきたわね!」
「レスト様の活躍が皆様に認められる……とても嬉しいです!」
何故だろう……ヴィオラとプリムラの方が、レストよりも今日という日を楽しみにしていたようだ。
「行きましょう、腕を借りるわね」
「エスコートをお願いします」
「ああ……お手をどうぞ、お嬢さん」
レストが両腕でヴィオラとプリムラをエスコートして、王宮の中に入っていく。
執事の案内を受けて、白亜の壁と柱に囲まれた廊下を歩いていき……その部屋の前にたどり着く。
叙勲式が行われる場所。国王陛下との謁見の間である。
「ゲッ……」
謁見の間の扉の前。
先にそこにいた人物の一人が顔を引きつらせる。
「いきなり、『ゲッ』はないだろう。会って早々に無礼な奴め」
「うるせえよ……左右に女を侍らせてきやがって、よくもまあ、鳥肌が立たないもんだよな」
顔を引きつらせて自分の両腕を撫でているのは『女嫌いの剣聖』……ヴィルヘルム・リュベースである。
レストが貴族らしい礼服に身を包んでいるのに対して、リュベースはやや武骨なデザインの服装。儀礼用の騎士服を着ていた。
レストのようにパートナーをエスコートすることなく、一人でこの場にやってきたようだ。
「パーティーでもないのに、ドレスを着た女をエスコートだなんて……恥ずかしくないのかね。呆れるぜ」
「パーティーだったら、女をエスコートできるのか? 女性恐怖症のリュベース君は?」
「するか! それと僕は別に女が『怖い』わけじゃねえよ。『嫌い』なんだ!」
リュベースが噛みつくように言ってきた。
レストの隣から、そっとヴィオラが耳元に囁いてくる。
「レスト……この人がもしかして……」
「ああ、騎士科一年のリュベースだよ」
「……イメージと違うわね。すごい剣士だって聞いてたけど」
確かに、今のリュベースから鬼気迫る剣技の片鱗は感じられない。
女と一緒の空間にいると、途端に弱くなるのである。
「やあ、レスト。来たようだな」
「うぐっ……」
同じく、謁見の間の前にいた女性が声をかけてくる。
慌てた様子で、リュベースが引っ込んだ。
リュベースと入れ替わりで出てきたのは、同じく騎士服を着た男装の麗人である。
強い光を放つ瞳、鼻筋の通った凛然たる相貌。胸が膨らんでいなければ、女性ではなく美貌の男性と判断したことだろう。
「こんにちは、カーベルト先輩」
アイシス・カーベルト。
騎士科三年生であり、生徒会執行部のリーダー。
凛々しい顔立ちと雰囲気から男性よりも女性に好かれそうなタイプで、校内にファンクラブまで持っている女傑だった。
「カーベルト先輩も王宮に招かれていたんですね」
「ああ。私も『男爵』に叙勲される。一応、サブノック討伐の第三位の勲功ということになっているんだ」
アイシスが唇を釣り上げ、皮肉そうに笑う。
「生徒会執行部のリーダーとして、生徒達の救助活動を率先して行ったことが認められたらしい……魔獣サブノックと会ってすらいないのに、討伐の功績だなんて言われても空々しいがね」
サブノック討伐の功績。第一位がレストであり、第二位がリュベース。第三位としてアイシスが認められたらしい。
今回、王立学園の生徒から叙勲されるのはこの三人である。
「我々はサブノック平原の開拓に従事して、それにより領地も与えられるそうだ……その前に、大きなイベントがあるようだけどな」
「フン……馬鹿な害虫を潰せってことだろう。やんごとなき御方がそこにいるなんて嘆かわしいよな」
リュベースも忌々しそうに舌打ちをしている。
どうやら、二人ともアイガー侯爵の反逆について知らされているらしい。
「二人も謀反人の討伐に参加するのだろう?」
「もちろん、僕はローズマリー侯爵家の人間でもありますから」
「騎士として、王家に背いた反逆者を許しておけるかよ」
「そうか……レストとヴィルヘルム、二人がいてくれてとても心強く思っている。ところで……えっと……」
アイシスがふと視線をさまよわせて、言葉を濁す。
先ほどまで凛とした顔で話していたというのに、おかしな態度である。
「君達は……アレだ。魔物を狙撃したりとか、得意なのかな?」
「狙撃……?」
「ああ、魔法でこう……見えない距離から撃ち抜いたり……」
「…………?」
どうして、急にそんなことを訊いてくるのだろう。
もしかして……アイガー侯爵の討伐に関係あることだろうか。
「僕は剣しかできない。狙撃なんてやったこともないな」
「俺はわりと得意分野ですよ。それがどうかしましたか?」
「そ、そうか……いや、それならば良いんだ。うん」
「…………?」
アイシスが一方的に会話を打ち切って、そっぽを向いてしまう。
「カーベルト先輩……?」
「さ、さあ! これから国王陛下との謁見だ! 二人とも、緊張して固くならないようにな!」
「……はあ、そうですね」
アイシスの態度はおかしいが……じきに謁見と叙勲の時間である。余計なことを考えてはいられない。
「「ムウッ……」」
背筋を伸ばして居住まいを正しているレストの横で、ローズマリー姉妹が警戒した様子で目を細めるのであった。
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