第116話 祭りの後始末
王立学園のイベント……魔猟祭で起こった惨劇により、学園はしばしの休校となってしまった。
生徒達の中から例年にない数の死者が出て、彼らを救助しようとした教員や生徒会メンバーからも被害が出ている。
一年生は参加者がほとんどいなかったものの、親類縁者や交流があった先輩を亡くしてしまった者もいた。
学園の授業は少なくとも一ヵ月は再開されることはないとのことで、この後に控えていた期末テストも中止になったのである。
「まったく、とんでもないことになったわね……まさか、ここまで酷いことになるなんて」
「本当に……レスト様に怪我がなくて良かったです……」
王都にあるローズマリー侯爵家のタウンハウスにて。
談話室のソファに座ったヴィオラとプリムラがそっくりの顔を暗くさせる。
「そうだな……二人も無事でよかったよ」
同じソファ、二人に挟まれて座っているレストもまた同意する。
魔猟祭ではレストは救助隊として前線に出ていたが、ローズマリー姉妹は後方のテントで運営側の雑務をしていた。
後になって知ったことだが……サブノックが原因で魔物のスタンピードが起こった際、二人は戻って来ないレストを探すために平原に突撃しようとしたそうだ。
一緒にいたセレスティーヌ・クロッカス公爵令嬢や父親のアルバート・ローズマリーが止めてくれなければ、きっと危険な目に遭っていたことだろう。
「お願いだから、あの時のような危ないことはやめてよね!」
「そうですよ! レスト様はローズマリー侯爵家のお婿さんなんですからね!」
「はい……気をつけます」
改めて叱られて、レストが消沈する。
魔境の主であるサブノックと戦い、倒したことを報告すると……驚かれると同時にキツイお説教をされた。
軍隊すら壊滅させることができる魔獣にたった一人で立ち向かうなんて、ただの自殺行為である。
そんな馬鹿なことをどうしてしたのだと……怒られ、責められ、ぶたれて、泣かれてしまった。
これにはレストも反省するしかない。されるがままに姉妹になじられて、謝り倒すことになったのである。
「ウウム……そんなに面白いことがあったのなら、私も参加すれば良かったな!」
談話室にいる四人目の人間が声を上げる。
悔しそうな言葉を吐いたのは、同じクラスの友人であるユーリ・カトレイアだった。
「ああ……勘違いしないでくれ。人死にが出たことを『面白い』などとは言っていない。あくまでも、私にも力になれることがあったかもしれないという意味だからな!?」
「わかっているよ……実際に君があの場にいたら、騎士団長が発狂していたかもしれないけどな」
ユーリは騎士団長であるイルジャス・カトレイアの娘である。
大勢の兄がいる中で唯一の娘のため、酷く溺愛されていると聞いたことがあった。
そんな父親の偏執じみた盲目的な愛情から逃げ出すため、ユーリは家出して学園に通っている。
ちなみに、ユーリは休校の間はローズマリー侯爵家に滞在していた。
今回の事件のあおりを受けて、暮らしていた学生寮が一時的に閉鎖されてしまったためである。
「父が来賓としてくると聞いていたから参加しなかったが……まさか、そんな騒動になろうとは。レストは魔境の主と戦ったのだろう? やはり強かったか?」
「とんでもなく……正直、勝てたことが奇跡だと思っているよ」
さすがは魔境の主である。
眷属の腐食獣だけでも十分に強かったし、リュベースの救援が無かったら危なかったかもしれない。
建国以来、誰も成しえなかった魔境の主の討伐を達成した喜びよりも、生き残ることができた安堵の方が大きい。
「レストが魔境の主を倒したことが広まったら、一躍英雄になるでしょうね。婚約者として鼻が高いわ」
「さすがはレスト様……と言いたいところですけど、本当にこういうことはやめてくださいね?」
「わかってるよ……悪かったって」
「なるほど、なるほど……ところで、サブノックを倒したことについて王家から褒章などはあるのかな?」
レストが再び頭を下げていると、ユーリが不思議そうに指を口元に添える。
「誰もできなかった偉業を達成したんだ。勲章や報奨金では足りないと思うが、王家は何も言ってこなかったのかな?」
「それなんだが……」
ユーリの問いに答えようとしたタイミングで、談話室の扉がノックされた。
「お嬢様、クロッカス公爵令嬢様がお越しになりました」
「通して頂戴」
「畏まりました」
メイドが一度下がって、談話室に新たな人間を連れてくる。
「ごきげんよう。皆様、おそろいのようですわね」
談話室に入ってきたのは宰相の娘であるセレスティーヌ・クロッカス公爵令嬢。
スカートの端を摘まんで綺麗なカーテシーをしたセレスティーヌが、穏やかに微笑みかけてくる。
「先触れでもお伝えいたしましたが……本日はレスト様にお伝えすることがあって参りました。サブノックの討伐の褒賞についてです」
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