第114話 『双翼』が生まれた日
愚者を貫く天罰の一撃のように、レストが放った光の一撃はサブノックの胴体を貫いた。
サブノックの胴体には巨大な穴が穿たれており、身体が上下に千切れてしまっている。
地面には大きな穴が口を開いており、レストの新しい魔法【天照】によって撃ち抜かれた部分は蒸発して残骸も残っていない。
それでも、頭部と両手足は残っており、光を失った両目が今日の主である巨獣が絶命していることを物語っていた。
「我ながら、恐ろしくなるほどの威力だな……魔力は減ってないのにムチャクチャ疲れた……」
空から戻ってきたレストは、地面に座り込んで自分が作った破壊の痕跡に嘆息する。
【天照】を撃ち放ち、レストはすぐに【浮遊】や【風操】などの魔法を発動させた。
すでに地表までの高度は五百メートルを切っており、スカイダイビングであればパラシュートを開くタイミングには遅い。
どうにか落下速度を軽減することができたが……地面に墜落した時の痛みはそれなりに痛い。
直前で肉体強度を強化させて、身体を水で覆っていなければ、きっと全身の骨が折れるほどの怪我をしていたことだろう。
「勝った……が、意外と感慨が薄いな……」
建国以来、誰一人として討伐できなかった魔獣を撃破した。
歴史に残るような偉業ではあるものの……まだ実感がわかないのか、ビックリするほど心の水面が凪いでいる。
もしもこの偉業を国に報告したら、はたしてどれだけの恩賞が出ることだろう。
かえって目立つことの鬱陶しさの方が大きいかもしれないが。
「……驚いたな。まさか、魔境の主を本当に一人でやっつけたのか」
「ん?」
後ろから声をかけられ、振り返るとそこにはヴィルヘルム・リュベースの姿があった。
腐食獣の群れを任せてきたはずだったが、リュベースには目立った怪我はなさそうだ。
「極められた魔法というのはこれほどの威力があるんだな……剣では到達できない高みというわけか」
称賛しながらも、リュベースの表情はどこか悔しそうである。
対抗心が感じられるのは、自分に為せない偉業を果たしたことへの嫉妬だろうか。
「……接近戦だったら、お前が勝ってるよ」
「フン……」
リュベースはしかめっ面でレストを見下ろしていたが……やがて不機嫌そうに口を開く。
「ヴィルヘルム・リュベース。リュベース男爵家の三男でアルマカイン舞刀術の免許皆伝した『剣鬼』。長い付き合いになるだろうから、脳にしっかりと刻んでおけ」
「…………?」
どうして、このタイミングで名乗るのだろう。
レストは怪訝な表情でリュベースを見返す。
「僕はいずれ、騎士団長としてこの国の騎士の頂点に立つ。君は宮廷魔術師の長官になるだろうから、長い付き合いだ」
「ああ……そういう意味ね」
理解した。
つまり、騎士と宮廷魔術師……いずれアイウッド王国の双翼になるであろう片割れであると認めたわけだ。
「気が早いな……俺達はまだ学生だぞ? 先輩や現役の騎士達の中にも実力者はいるだろうに」
「早く生まれただけの有象無象に興味はない。僕は必ず、この剣で頂点を取る……それだけのことだ」
「…………」
どうやら、リュベースはかなりの自信家のようである。
先輩の騎士達が聞いたら、さぞや
(プライドの高い男だが、虚飾というわけではもなさそうだな……セドリックやローデル王子と比べたらずっとマシだ)
「レストだ。ローズマリー侯爵家のレスト。まだ婿入り前だから姓はない」
「…………」
レストは地面に座ったまま、右手を差し出した。
リュベースがその手を握り返す。
後の歴史において、アイウッド王国を巡る戦乱を共に走り抜けた『双翼』。
時代の英雄となるであろう二人の初めての共闘は、これにて幕を下ろしたのであった。
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