第113話 驕る『王』と怒れる『神』
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
怒りと殺意を燃やしたサブノックが襲いかかってくる。
レストは噴きつけられるウォーターレーザーのような腐敗の唾液を回避して、そのまま空に浮かび上がった。
「【
四重奏での魔法発動。
レストは幻術の魔法を使用して姿を隠して、宙を蹴って飛行する。
(このまま接近して攻撃とかは……やっぱり、させてもらえないか)
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
レストの姿を見失ったサブノックは辺りを無茶苦茶に攻撃している。
おそらく、レストが魔法で身を隠したと悟ってのことだ。
迂闊に近づけば、ラッキーストライクでの攻撃を被弾してしまいかねない。
(となると……やっぱり、この手段しかないか)
「【風操】」
レストはサブノックの頭上を飛び越えて、空高くまで浮かび上がった。
グングンと高度を上げていく。気圧が下がって呼吸しづらい。気温も落ちて寒さが襲ってくる。
百八十秒ほどかけて到達したのは、地表から四千メートルほどの高さの場所。
旅客機が飛んでいる高度よりはずっと低いが、富士山を見下ろすことができるほどの高みである。
地上よりも風が強い。眼下に視線を向けても人間の姿などまるで見えないが、どうにかサブノックの巨体は確認できた。
「……これくらいで良いか」
レストが空中に留まり、停止する。
眼下ではサブノックがレストのことを探して暴れ回っているが、この位置ならば攻撃に当たることは有り得ない。
レストはサブノックを見下ろして、あえて口に出してこれからやるべきことを確認する。
「……サブノックは硬い毛皮を持っていて、上級魔法や四重奏の複合魔法で攻撃してもまともなダメージは与えられない。【星喰】ならば身体を削ることはできるが、この魔法は射程距離が短い。【星喰】の使用中は他の魔法を使えず、身体強化もできない。巨体で暴れまわる奴に接近して、ピンポイントで急所にぶつけるのは俺では不可能」
ならば、どうすればいいか。
一つの結論。遠距離から【星喰】と同等以上の威力の攻撃をぶつければいい。
残念ながら、レストが修得している魔法にそれを可能にするものはない。
レストは魔力量こそ無限であるが……魔法出力、つまり威力に関しては平均的でしかないのだから。
「【星喰】」
レストができる最大威力の魔法。
それはやはり、暗黒星を生み出すこの魔法である。
右手の先に黒い球体が生じて、同時に飛行するために使用していた魔法が強制解除されて落ちていく。
パラシュート無しでのスカイダイビングだ。
今更ではあるが、落下の恐怖が襲いかかってくる。
「これは、意外とキツイが……!」
魔法無し。特殊な装備無しでの四千メートルからの自由落下。
恐怖も寒さも半端ではないが……弱音を吐いていられる状態ではない。
レストは暗黒星に魔力を注いで、努めて冷静に成すべきことを遂行すると決めた。
「光を吸い込め……全てを喰らう暗黒星よ!」
その瞬間、平原一帯が暗くなった。
太陽の光が
異常な事態にきっと人間も魔物も混乱しているだろうが……それをやったのはレストである。
レストが暗黒星に命じて吸収させているのは周囲一帯の太陽光。
【星喰】は元々、ブラックホールをイメージして生み出したオリジナル魔法。
ならば、ブラックホールが光を捉えて逃がさないように、この魔法で光を喰らうことも当然のように可能だった。
「暗黒星に取り込まれた物は問答無用で消滅させられてしまうが……今回はあえて消させない。吸収した光を消滅の一歩手前で止めて、集約させる」
どんどん地面が近づいてくる。
三千メートル、二千五百メートル、二千メートル、千五百メートル……。
地表に近づくにつれて、豆粒のようだったサブノックの姿が大きくハッキリとなっていく。
「GYAO……?」
レストを探して暴れていたサブノックであったが……突如として落ちた闇を不審に思ったのか、空を見上げる。
太陽光の大部分が消えた空は闇に閉ざされているが……どうやら、夜目が利くようだ。
千メートル以上の距離を挟んで、レストとサブノックの視線が交わる。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
「見つかったようだが……もう遅い」
レストの手の中には、すでに十分な光エネルギーを孕んだ球体がある。
高さ四千メートルから千メートルまで、時速二百キロで落下することおよそ一分。
たった一分ではあるが……広い平原に降りそそぐはずだった光の大部分を掌中に収めている。
これがどれほどのエネルギーなのか、正直、レストにもよくわかっていない。
「即席で生み出した応用魔法だが……お前にこれが防げるかな?」
もしもこれがサブノックに通用しないのであれば、もはや手の付けようがない。
レストは死ぬか、這う這うの体で逃走することになるだろう。
(せっかくだから、この魔法にも名前を付けるとしよう……)
「【
レストは暗黒星に閉じこめた光に指向性を持たせて解放する。
眩いばかりの光の矢が大地に向けて……そこにいる巨獣に狙いを定めて放たれる。
暗闇からの極光。天岩戸に閉じこもった太陽神が顔を出したがごとく、日輪の力を凝縮させた一撃である。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!」
サブノックが頭上から落下してくるレストめがけて、唾液の水鉄砲を放ってきた。
しかし、それはまさに天に唾を吐く行為。太陽神による天罰を防げるようなものではない。
「GYA……!」
撃ち放った唾液を一瞬で蒸発させ、サブノックの身体が光に飲み込まれる。
胴体の中心を一直線に貫いて、一切の容赦をすることなく蒸発させてしまう。
平原の王。魔境の主。
自らを『王』と驕った怪物は、天上から落とされた神の鉄槌によって巨体を貫かれたのである。
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