第110話 騎士科最強と組みました

 目の前に現れた男の姿を見て、レストは大きく目を見開いた。


「ヴィルヘルム・リュベース。どうして、お前がここに……!?」


 現れたのは騎士科一年生で最強の男。

『女嫌いの剣聖』などと呼ばれているヴィルヘルム・リュベースである。

 予想外の登場だ。期待していなかった助け舟を受けて、レストは驚きからわずかに固まってしまう。

 その隙を見て、一匹の腐食獣が飛びかかってくる。


「GYAO!」


「ッ……!」


 飛びかかってきた腐食獣をレストは魔法で迎撃しようとする。

 しかし、それよりも先にリュベースが動いた。


「アルマカイン舞刀術……『散華』」


 一瞬のうちに放たれる幾重もの斬撃。

 空中で腐食獣が分解され、バラバラになって地面に落ちる。


「速い……!」


 リュベースの動きはとんでもなく速い。【超加速】を使用したレストにも匹敵する。

 おまけに、非常に硬い体毛を有した腐食獣の身体をいとも容易く斬っていた。


(それにあの剣……日本刀と似ている。斬撃に特化した刀剣か?)


「お前は……レストといったな。あの女の友人か」


 あの女というのは、『剣術』の授業の旅にリュベースに付きまとっている友人……ユーリ・カトレイアのことだろう。


「まあ、そうだな……ユーリは俺の友人だよ」


「どうしてここにいるんだ? ここは一年生が来るような戦場じゃないだろう?」


「その言葉、そっくりそのままお返しするよ……」


 リュベースだって一年生である。

 どうして、こんな最前線にいるというのだろう。


「棒立ちになっているだけならば帰った方が良い。ここは僕が請け負おう」


「話すのも初めての相手に、大事な戦いを任せられるわけがないだろうが。助けてくれたのは感謝するけど……君が帰った方が良いんじゃないか?」


 リュベースに言い返す。

 一応は助けられた形になるのだが、別に手助けがなかったとしても魔法で防いでいた。

 リュベースは剣士である。武器を溶かしてしまう腐食獣とは相性が悪いし、逃げた方が良いと本気で忠告する。


「GYAAAAAAAAAAAA!」


「GYAAAAAAAAAAAA!」


 話していると、数体の腐食重が唾液の水鉄砲を撃ってきた。


「【星喰】」


「『斬天』」


 レストが自分に迫る唾液を暗黒星に吸い込んで消す。

 リュベースが刀によって水鉄砲を両断した。左右に分かれた唾液が明後日の方向に消えていく。


「液体を斬った……?」


 金属を融解させる腐食の唾液を斬りながら、リュベースの刀は折れたり溶けたりした様子はない。

 どうやら、武器の表面に高密度の魔力を纏わせることで強度を高めているようだ。騎士や戦士がよく使う技なのだが……リュベースのそれはダニーラを始めとした他の騎士科生よりも遥かに洗練されている。


「敵の攻撃を消した……? おかしな魔法を使うんだな」


 一方で、リュベースの方も眉をひそめている。

 レストの使った見知らぬ魔法に怪訝な表情をしていた。


「落ち着いて話をしていられる状況じゃないか……」


 レストはとりあえず、敵を黙らせるべく広範囲の魔法を撃つ。


「【雷嵐サンダーストーム】!」


 雷が雨のように降りそそいで敵を襲う。

 広範囲の上級魔法。攻撃範囲は広いが威力は低い。魔法耐性が強い腐食獣に対しては牽制にしかならないが。


「上出来だ」


 リュベースが地面を蹴った。

 雷の魔法によって生み出された隙をついて敵に肉薄し、腐食獣を斬っていく。


「魔法は便利だな。良い援護だった」


「別に援護するつもりじゃなかったんだけどな……」


「GYAAAAAAAAAAAA!」


 リュベースに向けて腐食獣が攻撃を仕掛けようとする。

 レストは離れた場所から魔法を撃って、攻撃が放たれる前に潰す。


「アルマカイン舞刀術……『断章』」


 リュベースがさらに腐食獣を斬る。

 リュベースの剣はとにかく速く、とにかく強い。

 剣士としての一つの完成形。本来の十代では到達できないはずの理想的な剣技がそこにある。


(まさに天才剣士だな……主人公かよ)


 レストが魔法を撃ち、リュベースが剣を振る。

 予想外の事態ではあるものの……先ほどとは打って変わって戦いやすい。

 他者の援護があることがこんなにもやりやすいとは、思ってもみなかった。


(仲間との連携がここまで大事だとはな……色々と見直す必要があるかもしれない)


「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOO!」


 レストとリュベースが腐食獣と戦っていると、サブノックが興味を無くしたようにのっしのっしと平原を歩いていく。

 二人を無視して、そのまま平原の入口に向かって進んで行ってしまう。

 奥地に戻っていくのならば御の字なのだが、サブノックが歩いていくのは反対方向である。


「不味い……逃がすかよ!」


「おい、お前……!」


「ここは任せた! コイツらの相手をしてくれ!」


 腐食獣はすでに半分以下まで数を減らしている。

 リュベース一人でも、十分に相手をすることができるだろう。


「頼んだぞ、俺はアイツを止めにいく!」


【超加速】を発動、地面を蹴って猛スピードで駆け出した。

 リュベースには申し訳ないが……他に選択肢はない。

 レストは一方的に友人でも何でもない相手に敵を押しつけて、サブノックを追いかけていくのであった。

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