第101話 異変が起こりました
三人組の魔法科生徒を救助したレストは別行動をとっていた隊長……ユグルートと合流をした。
レストが駆けつけると、ユグルートは巨大な蛇と戦っている最中だった。
電信柱のようなサイズの大蛇の背中には昆虫のような半透明の羽があり、中空を飛びながらユグルートに襲いかかっている。
「シャアアアアアアアアアアアアア!」
「フンッ!」
噛みついてきた大蛇の牙をユグルートが槍で弾き返す。
そのままカウンターの一撃を……叩き込もうとするのだが、大蛇が口から毒液を吐いてきた。
「このっ……面倒な……!」
ユグルートが風の魔法を発動させながら、槍を振り回して毒液を振り払う。
防戦一方に回っている様子のユグルートであったが……背後に怪我をして倒れている生徒と、神官学科のナクーアを庇っていた。
ユグルート一人であれば上手く回避してそのままカウンターを繰り出していただろうに、怪我人が邪魔になって反撃に出られずにいる。
「【風刃】」
レストは状況を確認するや、すぐさま魔法を発動させる。
複数の魔法を並行発動させて強化した風の刃が鋭く飛んでいき、大蛇の背中に生えた翼を切断した。
翼を無くした大蛇が落下して、ドシンと小さな地鳴りを起こす。
「シャッ!?」
「もらった……!」
ユグルートがすぐさま動いて、槍を振るう。
穂先の刃が地面に落ちた大蛇の頭部を貫いた。
大蛇は何度か太い尾で地面を叩いていたが……やがて絶命して、動かなくなる。
「……レストか。助かったぞ」
「いえ、ご無事で何よりです」
ユグルートが槍を引き抜いて、レストの方に顔を向ける。
一人きりで単独行動をとっているレストに軽く眉をひそめた。
「ダニーラとトーマスはどうした?」
「二人は怪我人を収容して、平原の入口に引き返しています。それよりも……先ほどの救難信号に気がつきましたか?」
「ああ……この蛇と戦いながら見ていた。平原の奥の方で何発も救難信号が上がっていたな」
ユグルートが忌々しそうに表情を歪めて、槍の先で大蛇の死骸を小突く。
「……この魔物も本来であれば、平原のもっと奥にいる魔物だ。どうして、こんな場所にいるのか訳がわからん」
「それで……自分達はこれから、どうしますか?」
「これは学園にも予想外の事態に違いない。一度、スタート地点に撤退して……」
「待った……!」
レストが叫んで、平原の奥を弾かれたように振り返る。
平原に特に異変はない。少なくとも、まだ見える範囲内では。
「おいおい、マジか……!」
しかし、レストの背筋に冷たい汗がにじむ。
魔法による知覚……できるだけ範囲を広げていたそれにいくつもの気配が引っかかったのだ。
「どうした、レスト?」
「……魔物がこちらに向かってきています。一匹や二匹ではない。大量に」
そして、魔物に追いかけられているのか、魔猟祭に参加している生徒の気配もあった。
「早くここを離れた方が良い……俺が
「待て! 魔物を引き留めるのなら俺が……!」
「先輩の方が腕力があります。問答をしている暇はないので急いでください!」
「クッ……!」
ユグルートは悔しそうに唸ると、怪我人をまとめて抱えて立ち上がった。
「隊長命令だ。決して無理をせず、生きて帰還するように!」
「了解しました……行ってください」
「平原の外で会おう!」
ユグルートが人間を抱えているとは思えないような速度で平原を駆けていく。
ナクーアも慌てて、後に続いていった。
「……悪いけど、こっちも簡単に引けないんだよ。先輩」
遠ざかっていくユグルートの背中にレストがつぶやく。
こちらに走ってくる魔物の勢いは強い。それこそ、このまま平原の外まで流れ出してしまいそうなほどに。
(平原の入口。運営のテントにはヴィオラとプリムラがいる……!)
このまま魔物が流れ出して乱戦になれば、二人に危険が迫ってしまう。
(あそこには来賓として義父上も来ていることだし、学園の教員も騎士団長だっている。ちょっとやそっとの魔物にやられることはないだろうが……それでも、二人への危険は少しでも減らしておきたい)
「いったい、何が原因で走り回っているのかは知らないが……適当に間引かせてもらうぞ」
すでに目視できる距離にまで魔物が迫ってきていた。
レストが冷たい瞳で遠い敵影を見据えて、魔力を練り上げる。
「【石弾】」
そして……スナイパーライフルのように構えた腕の先端から、音速を超えた速度で魔法を射出したのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます