第97話 もっと救助します

「よし、お前らも倒したみたいだな」


 黒獅子が倒れたところで、ユグルートが声をかけてきた。

 見れば、ユグルートが戦っていた黒獅子もすでに地面に倒れている。

 それなりの強さであるはずの魔物をたった一人で敵を倒したようだ。


(二年生の先輩は伊達じゃないってわけか……少なくとも、ダニーラよりは強そうだな)


 レストだってその気になれば、一人で倒すことはできるだが……それはともかくとして、襲われていた者達を確認する。


「おい、お前ら。怪我は大丈夫か?」


「……ユグルートか。救助に来てくれて助かったよ」


 どうやら、黒獅子二体に襲われていたのは騎士科の二年生のチームのようだ。

 レストは会ったことがないが、同学年のユグルートとは顔見知りらしい。


「別の魔物と戦っていた時に奇襲されてな……あと少しでヤバかったよ」


「そうか。応急手当が済んだら、治療チームがいるスタート地点まで連れていってやるよ」


「いや……大丈夫だ。それには及ばない」


 やられていた生徒達が立ち上がる。

 怪我をして倒れていた者も応急処置を済ませており、動くことができそうだ。


「そこまで世話になるつもりはない。助けてくれたことは感謝するよ」


「フン……好きにすれば良い。死なないように気をつけろ」


 ユグルートもそれ以上は食い下がることなく、怪我をした学友が戻っていくのを見送った。

 怪我人もいるというのに、入口まで護衛しなくても大丈夫なのだろうか?


「良いんですか? 本当に送っていかなくても」


「構わない」


 レストの問いにユグルートが短く返事をする。


「彼らは騎士科の生徒だ。騎士は人々を守るものであり、守られる側ではない。こうして我々に助けられ、挙句の果てに子供のように守られて安全地帯に逃げ帰るというのが恥だったのだろう。気持ちはわかる」


 平原の入口には来賓として騎士団長も来ている。

 救助隊に守られて逃げ帰ったところを見られようものなら、将来的に騎士団に就職する際に不利になると判断したのかもしれない。


「まあ、騎士だからな。俺だってわかるぜ」


 ダニーラもユグルートの言葉に同意する。

 騎士科の人間達には彼らなりの誇りと気位きぐらいがあるようだ。


「命を粗末にするのは感心しませんけどね……」


「僕もそう思います……」


 レストのつぶやきに神官科の生徒がコクコクと頷いた。


「まあ、その話は良い……それよりも、お前達」


 ユグルートがレスト達の方をジロリと見る。


「さっきの戦いだったが……見事だった。一年生にしてはできるようだな」


「あ、はい……どうも」


「今後もその調子で励んでくれ」


 意外なことに……褒められた。

 ユグルートは粗暴な口ぶりとは違って、意外と懐の広い性格なのかもしれない。



     〇     〇     〇



 レスト達が救助部隊として従事し始めて三時間。

 あれから二回ほど救難信号が上がったが、一回は間違って打ち上げてしまった誤報。

 もう一回は無謀にも実力も経験も不足で参加した一年生が、さほど強くもない魔物に追い回されていたという情けない事情での出動だった。


 それからは特に仕事もなく、待機している時間の方が長かった。

 しかし……再び、空に救難信号の煙幕が上がった。それも二カ所同時に。


「……今年は去年よりもペースが速いようだ。レスト、お前は治癒魔法は使えるか?」


「ええ、使えます」


「よし……俺とナクーアは東側、ダニーラ、トーマス、レストは西側を対処しろ。救助が終わり次第、もう一方の側へ向かうこと」


「了解」


 別行動を許してくれたということは、先ほどよりも実力を認めてくれたということだろう。

 レストは騎士科の二人を伴って、救難信号が上がった地点に向かっていく。


「レスト、トーマス! 誰が先に到着するか競争だ!」


 ダニーラが魔法によって身体能力を強化させ、他の二人を置き去りにして走っていってしまう。


「おい、ダニーラ!」


 トーマスが慌てて叫ぶが、ダニーラは止まらない。


「まったく……アイツはしょうがないな」


 レストは溜息を吐く。

 独断専行なんてしたら、ユグルートに叱られてしまいそうなものだが……ダニーラがスピードを緩める様子はない。


「……まあ、相手になってやっても良いけどな」


 駆けっこ勝負だったら、この間やったばかりである。

 予行練習済みの力を見せつけてやろうではないか。


「悪いな、トーマス……ゆっくりついてきてくれ」


「へ……?」


「【超加速】」


 レストは一気に加速した。

 前を走っていたダニーラに数秒で追いつき、そのまま置き去りにして前を走っていく。


「うおっ……ちょ、待ちやがれ……!」


 後ろでダニーラが叫んでいるが……勝負を仕掛けてきたのはアッチである。

 レストは仲間二人を置いて、そのまま救難信号が上がった地点に駆けつけた。


「正直、一人の方がやりやすかったりするんだよな……」


 目的のポイントに到着すると、黒い体毛で額に角を生やした大熊に襲われている三人組の男女がいた。


「助けてっ!」


「もちろん」


 襲われていた女子生徒が叫ぶ。

 レストは短く返答して、一角の大熊に向かって魔法を放った。

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