第96話 救助隊、始動します

 救助スタッフとして現場入りしたレストであったが……ここは魔物の生息地域。もちろん、魔物が襲ってくる。


「グルルルル……!」


 目の前に現れ、威嚇してきたのはオ狼の魔物である。

 数は三匹。すでにレスト達に気がついており、牙を剥いて威嚇してくる。


「よし、見ていてやる。ダニーラ、トーマス、レスト。三人で一匹ずつ倒せ。ナクーアは後方待機だ」


 部隊の隊長であるユグルートが指示を出した。

 トーマスというのは騎士科の生徒、ナクーアは神官科の生徒である。

 二人とも執行部のメンバーではあるものの、顔合わせだけで会話をしたことはほとんどない。


「よっしゃあ! 俺は真ん中を殺る。トーマスは左、レストは右だ」


「了解」


 どうして、ダニーラが指図をするのかは知らないが、別に反抗する意味もないのでレストは了承する。

 目の前にいるのは狼の魔物。これまで、レストが訓練で倒してきたものとさほど変わらない強さだろう。


「さっさと倒してしまうか……【風刃】」


「ギャッ……」


 レストは敵が動くよりも前に魔法を発動した。

 飛んでいった風の刃が右側の狼の頭部を縦に両断して、あっさりと討伐する。


「オラアッ!」


「ギャイッ!」


 ダニーラが中央の狼に躍りかかる。

 狼が噛みついてくるが、牙をヒラリと回避して剣を振った。

 鋭く振るわれた刃が狼の首を深々と斬り裂いて、そのまま絶命させる。


「クッ、ヤッ、タアッ!」


「ギャウギャウッ!」


 三人目……トーマスという名前の騎士科の生徒はレストやダニーラほど余裕はないものの、狼の攻撃を受けることはなく倒していた。


「よし、問題なさそうだな」


 危なげなく魔物を倒した三人に、ユグルートが軽く拍手をした。


「最低限はやれるようだな。ところで……レスト。お前はその魔法、あと何発撃てる?」


「どうして、そんなことを訊くんですか?」


「いいから、さっさと答えろ。隊長命令だ」


 ユグルートが素っ気なく言う。

 レストは小さく溜息を吐いて、答える。


「何発かはわかりませんが……この魔法だったら百発撃っても、魔力切れはありません」


「ほお、それは頼もしいな……よし、先に進むぞ」


 レスト達は平原を進んでいき、事前に指定されていた配置についた。


「俺達はここで待機だ。救難信号が上がり次第、救助に動くぞ」


「わかりました」


 レスト達はあくまでも救助スタッフである。

 襲ってくる魔物は迎え撃つが、積極的に狩るようなことはしない。

 周囲を警戒しつつ、救難信号が上がらないか空に視線を向けておく。


「あ……!」


 待機すること三十分。

 東側の空に赤い煙が上がった。

 救助を求めるための信号弾のマジックアイテムである。


「よし、行くぞ! 急げ!」


 ユグルートが走り出す。

 レスト達も後を続いていく。ユグルートは身体強化を使っているようで、かなりのスピードで走っている。


(【超加速】を使えば追い抜けそうだけど……今は小隊単位での行動だからな。緊急時とはいえ、独断専行は良くないか)


 レストは仲間達と足並みを合わせて平原を駆けていき……やがて、救難信号が上がった地点に到着した。


「ガアアアアアアアアアアアアアアッ!」


「う、うう……」


「クソ……魔物め……!」


 そこには四人の人間と二匹の魔物がいた。

 四人のうち二人は魔物と向かい合っており、一人が倒れている。倒れた一人を最後の一人が介抱している。

 魔物と戦っているらしき二人も怪我をしており、満身創痍となっていた。

 立っている二人と相対しているのは、熊ほどの大きさの黒い獅子の魔物である。


「助けるぞ。俺が右、お前ら三人が左だ。ナクーアは怪我人の手当て!」


 ユグルートが端的な指示を出して、左側にいる黒獅子に向かって剣を抜く。


「俺とトーマスが前に出るぞ! レストは後ろから援護を頼んだ!」


 ダニーラがトーマスと一緒に前に出て、黒獅子に立ち向かう。

 騎士と魔術師が組んで戦う場合、騎士が前衛で魔術師が後衛を務めるのが定石である。ダニーラの判断は正しい。


(別に俺は前に出ても問題はないんだが……まあ、ここは騎士科の二人を立ててやるか)


 レストは騎士科の仲間二人の後ろで構えて、黒獅子を観察する。

 黒獅子は魔物としてはそれなりの強さのもの。魔物との戦闘経験の少ない者であれば、数分と保たずに倒れてしまうだろう。


(とはいえ……とんでもなく強い魔物というわけでもなさそうだな。油断をしなければ負けることはないだろう)


「【風刃】」


 レストは二発の魔法を同時に撃つ。

 熊ほどの大きさの黒獅子の前足二本を同時に斬り裂く。


「グギャアッ!?」


 完全に足を切断するには至らなかったものの、黒獅子が大きくバランスを崩す。


「ナイスだ!」


「よ、よし……!」


 ダニーラとトーマスがその隙に地面を蹴る。

 二人が黒獅子を左右から挟むようにして、剣で幾度となく斬りつけた。


「グギャアアアアアアアアアアアッ!」


 黒獅子が身体にいくつも切り傷を負いながら、それでも血まみれの両足の爪で応戦する。


「【氷槍アイスソーン】」


「ギャウッ!?」


 そこでレストがさらに魔法を発動させる。

 二本の氷の槍が黒獅子の両目に突き刺さり、視界を奪う。


「前足の次は目かよ……さすがに容赦ねえなあ!」


 ダニーラが叫びながら、鋭い突きを繰り出した。

 メチャクチャに振り回された爪をかいくぐって放たれた一撃が黒獅子の胴体に突き刺さり、そのまま心臓を貫いた。


「ガ……ア……」


 黒獅子が地面に倒れて、動かなくなった。

 赤黒い血が平原の地面にゆっくりと広がっていき、戦闘が終了した。

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