第95話 魔猟祭が始まります
魔猟祭。当日。
その日は晴天にも恵まれており、絶好の狩猟日和だった。
イベントの会場に選ばれたのは王都の東側にある平野である。
『サブノック平原』と呼ばれる広い平原であり、王国内で有数の魔物の発生地域として知られていた。
王家の直轄地であり、王都からも程近い距離にあるその平野は、過去に何度か農地にする目的で開拓が試みられている。
しかし、そのたびに平原の中央をナワバリとしている魔物……『サブノック』の邪魔を受けて、開拓団が壊滅させられていた。
サブノックはナワバリに入りさえしなければ危険のないため、放置されて平原外縁で魔物の間引きが行われているというのが現状である。
「いいですか、皆さん。今回の魔猟祭は事前配布してあった範囲内にて実施します。くれぐれも平原の奥に入り過ぎないようにしてください」
平原の入口に整列した生徒に向けて、教員が注意事項を説明している。
整列した生徒の人数はおよそ二百人。魔法科と騎士科がほとんどだが、少ないが神官科の人間もいた。
任意参加のため、まだ実力に乏しい一年生は少ない。三年生がもっとも多いのは、ここで活躍することでより良い就職の内定を目指しているのだろう。
魔猟祭には来賓として、国の重要人物も訪れている。
整列した生徒から少し離れた場所に設置された大きな天幕の中には、国防の責任者である宮廷魔術師長官と騎士団長がやってきているとのこと。
ここで良い結果を残せば、二人の目に留まる可能性も高くなる。
年によっては国王や王太子が見に来ることもあるのだが……今年はいない。
この場には第二王子であるアンドリューがいるからだ。万が一の事故が起こって王族が二人も亡くなるようなことがあれば国の柱が揺らぐため、国王も王太子も自重しているのである。
「特に平原の奥に踏み入り過ぎると、サブノックとその眷属の出没地域になってしまいます。くれぐれも無茶はしないように。危なくなったら全員に配布してある救難信号を打ち上げてください。すぐに救助スタッフが向かいます。魔猟祭では毎年のように死者や重傷者が出ています。くれぐれも油断をしないように」
教員の説明が終わり、魔猟祭がスタートした。
参加者は三~五人のグループに分かれて、平原に入っていく。
「さて……それじゃあ、俺達も仕事に入ろうか」
生徒会長であるアンドリューが手を叩いて、生徒会メンバーに呼びかける。
レストを含めた生徒会の面々は、整列する参加者から少し離れた場所に設置した運営のテントにいた。
「役員は裏方として作業に入ってくれ。執行部は教員と連絡を密にしつつ、配置について要救助者の救援にあたってくれ。いかに魔猟祭が任意参加で自己責任のイベントとはいえ……誰も死なせないように尽力を頼む!」
「「「「「はい!」」」」」
「よし、かかれ。諸君らの健闘を祈る!」
アンドリューの号令を受けて、レスト達も動き出した。
レストはヴィオラとプリムラの方を振り返り、二人に向けて手を挙げる。
「それじゃあ、二人とも。また後で」
「うん、レストも頑張ってね!」
「無理しないでください……くれぐれも」
「ああ、ちゃんと無事に帰ってくるから心配しなくていいよ。行ってくる」
ヴィオラとプリムラは役員として運営の裏方。
レストは執行部として、救助スタッフに加わることになっていた。
救助スタッフは五人一組の小隊規模で動くことになっているため、もちろん、チームメイトがいる。
「よし、一年坊主。こっちだ」
チームのリーダーである執行部の先輩がレスト達を呼ぶ。
騎士科二年生で執行部のメンバー。背は高いが体格はやや細身。顔立ちはそこそこ整っているが、目つきの悪さが台無しにしている。
「改めて……俺がEチームの指揮を執らせてもらう、騎士科二年のユグルートだ」
ジャック・ユグルート。
騎士科二年生の序列三位で槍の達人といわれている生徒だった。
二年生でありながら、すでに近衛騎士入りが確実とまでいわれている優秀な人物である。
ユグルートの下に集まった執行部メンバーは一年生の四人。
魔法科のレスト。騎士科のダニーラともう一人。そして、神官科の生徒がいる。
「言っておくが……現場では俺の命令は絶対だ。『No』という言葉は許さねえから、そのつもりでいろよ!」
「はい、わかりました」
「チッ……」
素直に頷くレストに対して、ダニーラが不服そうな顔をしている。
自分の学科の先輩なのだから、もっと愛想良くしろと言いたい気分だった。
「不満があるのならここで待っていろ。騎士団では上官の命令が全て。俺は今回の作戦における隊長なわけだから、従えない兵士を連れていくつもりはない」
「……従うよ。別に文句はねえ」
ダニーラが渋々といったふうに両手を挙げる。
「文句がねえのなら、出発するぞ。俺達が担当しているのは平野の入口周辺だ。危険が少ない場所ではあるが、戦場に絶対はない。心しておけ!」
レスト達は執行部とはいえ、一年生である。
比較的、安全な場所を担当として割り振られていた。
「よし、行くぞ。出発だ!」
ユグルートの指示を受けて、レスト達も平原に入った。
救助スタッフとはいえ、もちろん、生息地域に入れば魔物は襲ってくる。
襲ってくる魔物を迎え撃ちながら、担当区域を突き進んでいったのであった。
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