第92話 再び、学園に通います
カフェでお茶をして、スイーツを楽しんで……レストとローズマリー姉妹は領地での束の間の休日を終えた。
週明けには王都に戻って、学園生活の再開である。
レストは早々に生徒会室に行って、執行部に入ることを了承した。同じようにヴィオラとプリムラも役員になる旨を連絡している。
「ありがとう。君達が入ってくれて、とても心強く思っている」
第二王子にして生徒会長であるアンドリューは笑顔で握手を求めてきた。
騎士科三年生のエースでもあるアンドリューは気さくな性格から、騎士科のみならず険悪であるはずの魔法科の生徒からも親しまれているらしい。
王太子である兄がいるため、国王になることはないのだろうが……十分に人の上に立つ資質を持っているようである。
ともあれ……生徒会執行部に入ったものの、それで劇的に学園生活が変化するかというとそうでもない。
クラスメイトに執行部に入ったことを伝えると、「やっぱりな」という反応。
平民出身の生徒はレストが入学試験の実技でとんでもない好成績を出したことを知っているし、貴族出身の生徒はローズマリー侯爵家の掌中の珠である姉妹を与えられたレストに一目置いている。
騎士団長の娘であるユーリ、公爵令嬢であるセレスティーヌとも親しくしていることもあって、レストが生徒会入りすることを予想していたらしい。
執行部は風紀を取り締まる立場のため敬遠されるかと思いきや、好意的に受け入れられていた。
先日の第三王子ローデルの暴行事件のようなことは滅多に起こることではないし、やることといえばケンカの仲裁くらいのものである。
例外なのは……一度だけ、校内に侵入した不審者を捕まえる機会があったことくらいだろう。
「僕はうら若き青い果実を切り取り、キャンパスに描かなくてはならないのだ! 邪魔してくれるな魔法使いの少年よ!」
「いや、知るか! 待てこらのぞき野郎!」
「さあ、待っていてくれ。麗しき令嬢達よ! 愛と平和のアーティストであるこの僕が君達を愛でにゆくよ!」
「止まれ! むしろ死ね変態が!」
その不審者の詳細についてはまたの機会に語ることにするが……その男はおそれ多くも貴族のご令嬢の着替えや運動着姿、パンチラなどを絵画として描くため、取材のために学園に不法侵入してきた。
その不審者を捕らえて令嬢達の危機を救ったことにより、レストの株は思わぬ上昇を見せることになる。
おかげで最近では他クラスの生徒からも厄介事を相談されるようになっており、怖がられるよりも良いように使われている気分だった。
少し緊張させられたのは……謹慎を受けていたローデル第三王子が学園に復帰してきたことである。
また問題を起こすようであれば対処しなくてはいけないとレストは思っていたが……意外なことに、特に執行部として動かなければいけないようなことにはならなかった。
それというのも……先日の事件を重く見た学園がローデルと取り巻きの生徒を隔離し、別室で授業を受けるようにさせたのだ。
さらに、常に学園の教員がそばに貼りついて監視するようになっていた。
セレスティーヌも裏で色々と動いているようで、ローデルに対する監視がかなりぶ厚くなっている。
そんな腫れ物のような扱いに、ローデルは特に不満をこぼしてはいないとのこと。
別室で授業を受けていることも「自分が特別扱いされている」と前向き過ぎる判断をしたらしく、Dクラスに入れられたことに不満を持つ高慢な王子にとっては望むところだったようだ。
今は大人しくしており、レストが執行部として対処するような事態にはならなかった。
こうして、レストが学園に入学して最初の三ヵ月が過ぎていき、季節は初夏を迎えたのである。
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