第80話 公爵令嬢から呼び出されました
ローデル・アイウッド第三王子の暴走から数日。
元凶の馬鹿王子がいなくなったせいか、特に問題なく穏やかな学園生活が過ぎていった。
あれから、ローデルは停学処分を受けて自宅……つまり城で謹慎中。
あの時、燃やされたDクラスの男子生徒も学園の養護教諭の適切な治療もあって、軽いやけどの痕が残るだけで日常生活に支障はないとのこと。
ローデルと取り巻き二人を叩きのめした人物についてはわからずじまい。
学園内での許可のない魔法攻撃は如何なる理由があっても校則違反になる。しかし、事情が事情だけあって、教員側も「自分から名乗り出るように」と生徒全体に通達されているだけで積極的に探してはいないようだ。
「レストさん、少しお時間よろしいでしょうか?」
そんなある日の放課後。Aクラスの教室にて。
珍しく、セレスティーヌ・クロッカス公爵令嬢がレストに話しかけてきた。
セレスティーヌはクラスメイト全体とまんべんなく交流を図っているが、特定の個人に接触してくるのは珍しいことである。
「何か用かな?」
「ええ、ちょっと話がありまして、来て頂きたいのだけど……」
「別に構わないけど……何の用事かな?」
「ここではちょっと……」
セレスティーヌがさりげなく教室を見回した。
人目がある場所では話しづらいことだろうか……レストは席から立ち上がる。
「ああ、じゃあ場所を変えようか」
「私達もご一緒しても良いかしら?」
「私も……」
ヴィオラとプリムラも一緒になって立ち上がる。
セレスティーヌが穏やかな表情で頷いた。
「ええ、もちろん」
レストとローズマリー姉妹は教室を出て、セレスティーヌに先導されて廊下を歩いていく。
「色々とご活躍みたいですね。レストさんは」
廊下を歩きながら、セレスティーヌが口を開く。
「何のことかな?」
「噂になっていますよ。『剣術』の授業で騎士科一年の序列二位であるダニーラ・ベトラス伯爵子息を倒したとか」
「ああ……アイツ、伯爵子息だったのか」
『剣術』の最初の授業で模擬戦をした男子生徒を思い出した。
フルネームは知らなかったのだが……ダニーラ・ベトラスという名前のようだ。
「ベトラス伯爵は騎士団の重鎮の一人であり、ダニーラ卿は三男ではありますが剣才に恵まれ、将来を期待されています。それを魔法科の生徒が打ち破ったのですから、騎士科ではかなり話題になっているようですよ」
「あー……そうなのか」
そこまで強い相手とは思わなかった。
それなりの実力者だとは思ったのだが……まさか、騎士科一年の序列二位だったようである。
「まあ、レストだったら当然よね!」
「レスト様ですから。私達も鼻が高いです!」
ヴィオラとプリムラが得意げに胸を張る。
レストが多くの生徒から注目されるような功績を挙げたことが嬉しいようだ。
「それに……先日のローデル殿下のこともそうですわね」
「え……?」
「御礼を言うのが遅くなってしまいましたが……殿下の問題を収めていただき、誠に感謝しております」
「……何のことかな?」
十中八九、ローデルが起こした暴行事件のことなのだろうが……レストは白を切った。
「隠さなくても大丈夫ですよ。私を含めて、一部の人間は気がついているようですから」
「気がついているって……」
「レストさんは御自分で思っているよりも、教員から評価されているんです。入学式で宮廷魔術師顔負けの高等技術を披露したとか」
「あ……」
レストは入学試験で
多くの受験生はその技術に気がついていなかったが……試験監督をしていた学園長はもちろん知っているし、他の教員にも情報は共有されている。
「煙幕の魔法を使用して、正体が気がつかれないままに殿下を鎮圧……誰にでもできることではありません。事件が起こった場所と状況からして教員や上級生でないとなれば、候補者は限られます。あえて明らかにしていないだけで……教員の間では、ローデル殿下を倒したのがレストさんであることはほぼ確定しているようですよ?」
「…………」
レストは渋面になった。
上手く隠したつもりだったが……バレる人間にはバレていたようである。
「あの……教員の方々がそれを知っているのはわかりましたけど、どうしてセレスティーヌ様がご存知なのでしょうか?」
控えめに手を挙げて、プリムラが会話に入ってくる。
魔法科の教員がレストの実力を知っているのはわかったが……セレスティーヌにまで露見している理由は不明だった。
「私は魔法科の特待生で、ローデル殿下の婚約者ですから。生徒の監督役としてそういった情報が知らされているのですよ」
「なるほど……」
「それともう一つ、理由がありまして……ああ、こちらですわね」
話があるということなので、てっきりどこかの店かカフェテリア、学内にあるサロンにでも行くとばかり思っていたのだが……セレスティーヌに連れていかれたのは別の校舎。職員室や部活棟として使用されている建物だった。
「あの、いったいどこに……」
「ごめんなさいね……お話があるというのは私ではなく、ある御方なのですよ。詳しいことは着いてからにさせてくださいませ」
「…………?」
話があるというのは、セレスティーヌではなく別の人間のようだ。
公爵令嬢であるセレスティーヌが『あの御方』などという言葉を使うからには、それなりの身分の人間なのだろう。
「こちらです」
到着したのは、『生徒会室』書かれている部屋だった。
セレスティーヌが扉をノックすると、すぐに「どうぞ」という応答が返ってくる。
「失礼いたします」
セレスティーヌが扉を開いて、レストとローズマリー姉妹を中に誘導する。
部屋の中には三人の人間がいた。
一人目は部屋の奥にあるデスクについた男子生徒。金色の短髪の上級生で、顔立ちは秀麗だが身体つきは筋肉質で鍛え上げられているのがわかる。
残りの二人は左右の壁際に立っている男女。
右側の男性は茶髪でいかつい顔、大柄な屈強そうな体格。
左側の女性はクールな顔立ちの銀髪、スレンダーで背が高いモデル体型。
(生徒会室ってことは……この人達が生徒会役員だよな?)
そして、奥のデスクにいるのが生徒会長なのだろう。
面識はないが、本年度の生徒会長が誰かは知っている。
「よく来てくれたね、初めまして」
デスクから立ち上がって、生徒会長らしき男性が挨拶をしてくる。
「俺が今期の生徒会長をしているアンドリュー・アイウッドだ。騎士科の三年生で、一応、この国の第二王子をしている」
第二王子アンドリュー・アイウッド。
先日、問題を起こしたローデル馬鹿王子の腹違いの兄である。
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