第64話 初めての放課後になりました
新入生のためのガイダンスは特に問題が起こることなく終わった。
途中で第三王子ローデルが乗り込んでくるといったアクシデントが発生することもなく、今後の学生生活についての注意事項や授業の選択についての説明を受けた。
王立学園は大学のように授業を選択することができるため、必修科目の授業以外では他クラスの生徒、あるいは他学科の生徒と同じ授業を受けることもできる。
それはつまり……ローデルや取り巻き連中と机を並べて授業を受ける可能性があることを意味していた。
(今回はヴィオラやプリムラが席を外していたから良かったけど……二人がいて、絡まれるようなことは避けないとな)
レストはできる限り、姉妹と授業を合わせることを誓った。
ヴィオラもプリムラも嫌がりはしないだろうし、自分がいないところで二人がローデルに絡まれるようなことは避けたい。
「今日はもう帰って良いみたいね。行きましょう、レスト、プリムラ」
「ああ、帰ろうか」
「はい、行きましょう」
ガイダンスが終わって、レストとローズマリー姉妹が席を立つ。
まだ昼前の時間だが……今日はこれで放課後になる。
「せっかくだし、帰りにどこかでご飯を食べていこうか」
「はい。私と姉さんもそのつもりでした」
「お昼は食べてくるからいらないって、家のシェフに伝えてきたわ。カフェでも探しましょう」
ヴィオラはニッコリと笑って、新しい友人にも話の水を向ける。
「ユーリも一緒にどう? 親睦会でもしない?」
「ああ、誘ってもらえて嬉しいよ……だけど、残念だけど先約があるんだ」
誘われたユーリが眉尻を下げて、残念そうに言う。
「これから、伯父と伯母と一緒に食事をとる約束をしているんだ。また誘ってくれると嬉しいな」
「そう……それじゃあ、しょうがないわね。また今度」
「ああ。レストとプリムラもまたね」
「ああ、また」
「はい、さようなら」
ユーリが先んじて教室から出て行った。
レストとローズマリー姉妹もやや遅れて教室から出る。
三人は連れたって学園から出て行こうとする。しかし、校舎を出たタイミングで別の生徒に話しかけられた。
「皆様、ちょっとよろしいでしょうか?」
声をかけられて振り返ると、そこには先ほどクラスメイトになったばかりの女子生徒がいた。
「セレスティーヌ様?」
ヴィオラがわずかに目を見張る。
そこにいたのはセレスティーヌ・クロッカス。クロッカス公爵家の令嬢であり、ローデルの婚約者でもある人物だった。
「先ほどの御礼がしたいのですけど……よろしければ、今からお時間を頂けないでしょうか?」
「えーと……御礼なんて、むしろ俺の方が助けてもらったわけですし……」
「だったら、お詫びですね。私の婚約者が迷惑をかけたようですから」
セレスティーヌが意味ありげに校舎を見上げて、溜息を吐いた。
「ローデル殿下は学園長に直談判に行っています。自分がDクラスなのは納得がいかないって……申し訳ないですが、学園長先生にお任せすることにしました」
「えっと……大変なんですね。その、殿下は噂通りで」
プリムラが気づかわしそうに口を開く。
先ほどの騒動については、すでにプリムラも知っている。
レストがクラスを交換させられそうになって、憤慨していた。
「ええ……良いカフェレストランを知っています。そちらでゆっくりと話しませんか?」
「えっと……良いわよね、二人とも?」
ヴィオラがレストとプリムラの方を確認する。二人ともすぐに頷いて了承した。
「それでは、ご一緒させてください」
「はい。それでは、我が家の馬車で先導いたしますので付いてきてください」
四人はクロッカス公爵家、ローズマリー侯爵家それぞれの馬車に乗り込んで、町の中を走っていく。
目的の場所には十分ほどで到着した。
それなりに大きくて、高級そうな店構えのカフェレストランがそこにはあった。
「こちらはクロッカス公爵家が経営している店の一つです。個室もありますから、ゆっくりと話ができますよ」
セレスティーヌの案内を受けて、レスト達はカフェレストランに入っていった。
上等なタキシードを着た中年の定員に案内されて、二階にある個室へと通される。
「さあ、どうぞ。お掛けになってくださいませ」
「失礼します」
六人用のテーブルにレストが座り、左右にローズマリー姉妹が座った。
テーブルを挟んで対面にセレスティーヌがついて、穏やかに微笑みながらメニューを差し出してくる。
「お飲み物は何がよろしいかしら? お料理はこちらに任せてくださる?」
「ええ、お任せします。飲み物はアイスティーで大丈夫です」
「私もそれで良いわ」
「二人と同じもので」
「では、そういうことで」
セレスティーヌが控えていた店員に注文すると、「かしこまりました」と頭を下げて足音を立てることなく下がっていった。
少し待っていると、ドリンクと前菜が運ばれてくる。
「さて……食事を始めたいところですが、その前に改めてご挨拶と謝罪を」
セレスティーヌが居住まいを正して、軽く頭を下げる。
「私はセレスティーヌ・クロッカス。公爵家の人間です。ヴィオラ様とプリムラ様とは何度かお会いしたことがありましたね?」
「ええ、お久しぶりです」
「あの……お元気そうで何よりです……」
「それで……レスト様と仰いましたね? 貴方様が御二人と婚約して、ローズマリー侯爵家の婿となる方でよろしかったですか?」
「ええ……その通りです。ご存知だったんですね?」
「クロッカス公爵家は貴族のまとめ役をしておりますから。大抵の情報は入ってきますわ。あの子煩悩で有名なローズマリー侯爵が娘二人を与えることを許した男性……いったい、どのような方かと思っておりました」
セレスティーヌが上品な笑みを浮かべて、どこか探るように言ってきた。
「貴方には二度も助けられましたね……教室でローデル殿下に絡まれた際。そして、入学式で泥をぶつけられそうになったときにも」
「…………!」
どうやら、セレスティーヌはレストがやったことに気づいていたようである。
レストが思わず瞳を瞬かせると、セレスティーヌは「やっぱり」と苦笑をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます