第61話 暴君の降臨です
「あ、ごめんなさい。少しお花摘みに行ってきます」
ユーリとの接触、自己紹介が終わったタイミングでプリムラが席を立った。
「あ、私もちょっと行ってくるわ」
「おお、それでは私もご一緒させてくれ。女の子はみんなでトイレに行くものだと本で読んだぞ!」
ヴィオラとユーリも続いていく。
レストが時計を見ると、入学式後のガイダンスが始まるまで十分ほど時間がある。
「三人とも、遅れないようにね。席は取っておくから」
「わかったわ。それじゃあ行ってくるわ」
三人が教室から出て行った。レストが一人残される。
「…………」
手持ち無沙汰だったので教室を見回すと……すでにAクラスの席は半分ほどが埋まっている。
座って時間が経つのを待っている者もいれば、顔見知りと雑談している者もいた。
(貴族と平民の割合が九対一というところかな……)
Aクラスの教室にいるのは半分以上が貴族出身者だった。
魔法科の平民出身者は一緒に試験を受けたので、顔はおおよそ覚えている。成績優秀そうなものならばなおさらに。
(やっぱり、魔法に関しては幼い頃から教育を受けている貴族の方が有利だな。裏を返せば、平民枠からの合格者は相当努力したんだろう)
この教室にいる平民の新入生は、いずれも試験時の『的撃ち』でそれなりの成績を収めていた者達だった。
ふと不思議に思ったのは、レストとユーリに続いて優秀な成績を収めていたはずの少年がいないこと。
(パセリ少年……じゃなくて、セロリ少年の姿が見えないな。もしかして、下のクラスだったのかな?)
実技試験の成績は平民枠ではレスト、ユーリに続いて三番目だったが、セロリ少年はAクラスの教室にいなかった。
筆記試験の成績が振るわずに下のクラスになってしまったのだろうか?
(まあ、同じクラスだったら揉めていたかもしれないからな。別のクラスになって正解だよ、うん)
そんなことをぼんやりと考えていると、教室の扉がガラガラと勢い良く開かれた。
いったい、誰がそんな乱暴な開け方をしたのかと目を向けると……そこには三人組の男子生徒がいた。
「アレって……!」
「ええっ!?」
「うっわ……」
その三人組が入って来るや、教室からザワリとざわつきが生じた。
あまり良い反応ではない。どちらかというと、厄介者が現れたようなリアクションである。
「どうしてあの方がここに……?」
「クラスが違うぞ。確かDクラスになったって聞いたけど……」
「え、Dクラス? 魔法の天才って話じゃなかったのか?」
「筆記試験をほとんど白紙で出したって聞いたぞ……『王者に必要なのは力のみ。知識が必要ならば家臣に聞けば良い』とか言って」
クラスメイトがヒソヒソと話し始める。
どうやら、入ってきた男子生徒は有名人だったらしい。
色々と聞き捨てならない内容のものもあり、妙に不穏な空気になってしまう。
「…………?」
レストは怪訝に思いつつ、現れた三人組をさりげなく観察する。
先頭を歩いてくるのは金色の髪を逆立たせた男子生徒。
顔立ちはそれなりに整っていたが、目つきが悪く、ブレザーのボタンを留めずに着崩している。
追従して歩いてくるのは、坊主頭で高身長の男と、小柄で神経質そうな顔つきのメガネの男だった。
(無駄に偉そうな奴らだな……前世だったら、関わり合いにならないように避けて通っていたタイプだけど……)
レストはそっと目をそらした。
今回の人生でも、このタイプの相手と関わらない方が良さそうだと判断したのである。
「…………」
しかし、三人組の先頭にいる男子が教室全体に睨むような視線を巡らせると、前の席に座っていたレストの方にズンズンと歩いてきた。
「おい、そこのお前」
「…………」
「お前だ! さっさとこちらを見ろ!」
「…………マジか」
関わらないようにしていたのに、その男子は明らかにレストに話しかけていた。
仕方がなしに振り返ると、金髪を逆立たせた少年が机に手をついて、レストのことを威圧的に見下ろしてくる。
「貧相な顔つきからして、お前は平民だな?」
「…………そうですけど、それが何か?」
「よし……お前はこれからDクラスに入れ」
「…………はい?」
「この私がAクラスに入るから、お前は代わりにDクラスにいけ。平民ごときにAクラスは荷が重いだろうから代わってやろう」
「…………」
男の傍若無人な言葉に、レストは唖然として言葉を失った。
どうして、初対面の名前も知らない男にこんなことを要求されなければいけないのだ。
レストが唖然として黙り込んでいると、横にいた大柄の坊主頭が苛立ったように机を叩いてくる。
「こちらの御方が……第三王子であらせられるローデル・アイウッド様が代われと命令してんだよ! 薄汚ねえ平民野郎はさっさと消えやがれ!」
(ローデル・アイウッドって……まさか……)
まさか……この金髪の男子生徒が噂に名高い馬鹿王子だというのだろうか?
レストは顔を引きつらせて、椅子に座ったままの姿勢で三人組を見上げたのであった。
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