第60話 ユーリと再会しました
小さな騒動があったものの……入学式が終了して、クラスごとの教室に移動することになった。
王立学園は三学年制であり、五つの学科ごとに校舎が分かれている。
A~Dまである四つのクラスのうち、レストと姉妹が割り振られたのはAクラスである。
クラス分けは成績によって決められており、Aクラスにはもっとも入学試験の成績が良かった者達が割り振られる。
卒業まで同じクラスというわけではなく、学期末の試験のたびにクラス替えが行われるため、Aクラスを維持するために努力を続けていかなければいけない。
(AクラスかDクラスかで、卒業後の進路がまるで違ってくるからな……ローズマリー侯爵家の恥にならないように頑張らないと)
レストは現在、ローズマリー侯爵家への婿入りが決まっている。
もしもDクラス落ちするようなことがあれば、侯爵家の恥になるかもしれない。
(卒業後の進路はやっぱり宮廷魔術師かな。父親と同じ職業になるのは
「あ、こっちの教室ですね」
プリムラがレストの腕を引く。
魔法科の校舎の二階。一年Aクラスの教室である。
「席は自由みたいね。前の方に座りましょう」
ヴィオラが空いている席を指差した。
レストとローズマリー姉妹は入学式と同じように、三人並んで机に着いた。
「ふう……それにしても、入学式のアレは何だったのかしら?」
「誰かが魔法を撃ったみたいですね……その、セレスティーヌ様に……」
二人の話題に上がるのは、やはり入学式での出来事である。
壇上で魔法科の主席として挨拶をしていたセレスティーヌ・クロッカスが魔法で攻撃された。
非殺傷性の魔法であったとはいえ、これはそれなりの問題ではないか。
来賓もいて式典を途中で止めるわけにはいかなかったため、あの場では犯人追及などは行われなかったが……狙われたのが公爵令嬢となると大事である。
「あの……もしかして、あの泥の魔法を防御したのはレスト様ですか?」
プリムラが周りに聞かれないよう、小声で訊ねてきた。
「あ……やっぱり、わかっちゃったかな?」
「ああ、やっぱりそうだったのね。私とプリムラ以外は気づいてないと思うわ」
プリムラだけではなく、ヴィオラも気がついていたようだ。
「咄嗟に魔法で防御するなんて、レスト以外には出来ないものね」
「レスト様でしたら当然ですよね。私も姉さんも何もできませんでしたよ」
「過大評価だよ。俺が何もしなくたって、学園長が防いでいたさ」
誰かが撃った泥の弾丸を受け止めたのは結果的にレストだったが、学園長も同じタイミングでセレスティーヌを守るために防壁を発動させていた。
最初から何もする必要はなかったのだ。
「学園長と同じことができるのが、もうすごいと思うけどね……学園長は賢者様なのよ?」
「他の魔法科の先生も何もできなかったみたいですし……やっぱり、レスト様はすごいですよ」
「ム……」
手放しで褒められると、さすがに照れてしまう。
レストは気恥ずかしくなって黙り込んだ。
「ああ! いたっ!」
しかし、そんなタイミングで教室の入口から声が上がった。
「レスト君ではないか! 君も同じクラスなんだね!」
嬉しそうな黄色い声を上げて、レストが座っている席まで小走りでやってきたのは赤髪をなびかせた、溌溂とした雰囲気の少女。
騎士団長の娘、ユーリ・カトレイア。
平民枠の入学試験で一緒になった少女である。
「君も合格していたんだね! また会えて嬉しいよ!」
「あー……えっと、カトレイアさんか……」
「ユーリで構わないよ! 君と私の仲だからね!」
どんな仲だ。
一緒に試験を受けただけの同級生である。
「えっと……ユーリ、さん……」
「ユーリで良いよ。僕もレストと呼ばせてもらうね!」
「あー、うん……そうだね……」
「レスト、その方はどなたかしら?」
「レスト様、誰ですか?」
左右からヴィオラとプリムラが会話に入ってくる。
二人とも笑顔だったが……何故か背筋が冷たくなってしまう。
「ああ……前に話しただろう? 入学試験で一緒になったユーリ・カトレイアさんだ」
「そちらの二人はレストのお友達かい?」
「「婚約者です」」
ヴィオラとプリムラが異口同音できっぱりと断言する。
その言葉にユーリは驚いた様子で目を見張るが、すぐに破顔して笑った。
「こんな美しい婚約者がいるのはさすがレストだな! 私が見込んだだけのことはある!」
「「ム……」」
そんなユーリの反応に、姉妹が顔を見合わせた。
反応を見る限り、ユーリはレストに対して恋愛感情を持っているということはなさそうである。
「ごめんなさい、態度が悪かったわ……私の名前はヴィオラ・ローズマリー。こっちは妹のプリムラよ」
「プリムラです。これからクラスメイトになりますし、よろしくお願いします」
改めて、ヴィオラとプリムラが自己紹介をすると、ユーリがにこやかに握手を求めてくる。
「ユーリだ。それにしても……ローズマリーということは、もしかして宮廷魔術師の長官であるローズマリー侯爵家の方々なのかな?」
「ええ、ローズマリー侯爵は私達の父よ」
「ユーリさんはカトレイア侯爵家の方ですよね? 騎士団長の」
姉妹がユーリの手を握り返して、訊ねた。
するとユーリは気まずそうな表情で視線を逸らす。
「ま、まあ、そうと言えなくもないような……あくまでも学園には平民として通っているので、姓のことは気にしないでくれ」
「「…………」」
姉妹が「だったら名乗らなければいいのに……」と言いたげな目で沈黙する。
人に会ったらちゃんと名乗って自己紹介をする、ユーリにしてみればそんな当たり前の行動なのかもしれない。
「嬉しいなあ。レストに続いて、また二人も友人ができた……この学園でなら、私は変わることができそうだよ」
嬉しそうに握手した手を上下に振るユーリ。
口ぶりからして、何か事情があるようである。
「三人とも、これから仲良くしてくれ!」
「「「…………はい」」」
満面の笑顔のユーリに、レスト達はそろって微妙な表情で頷いたのである。
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