第54話 新しい人生が始まりました
腹違いの兄と最後の戦いを済ませたレストは、魔法で肉体を強化してローズマリー侯爵家に帰宅した。
レストがローズマリー侯爵家の屋敷に戻ったのは夕方になってのことだったが、玄関先に見知った二人が待っていた。
「あ、レスト!」
「レスト様!」
「あれ? 二人とも待っていたのか?」
玄関前に立っていたヴィオラとプリムラに、レストは思わず目を丸くさせた。
帰宅時間は伝えていなかったのに……いったい、いつから待っていたのだろうか?
「あー、うん……やっぱり心配で。だってあそこに行ってたんでしょ?」
「馬車だけ帰ってきたから、何かあったのかと思いましたよ!」
ヴィオラが気まずそうに、プリムラが少し怒ったように言う。
レストは先ほどまでの殺伐とした気持ちが一掃され、温かな感情が胸の奥から湧き上がってくるのを感じた。
自分が受け入れられている。自分を心配してくれている人がいる。
それがこんなにも幸せなものだとは。
「ごめん、心配かけて。だけど……おかげでちゃんと決着をつけられたから」
二人の手を握ってレストは穏やかな口調で言う。
握りしめた掌にプレゼントした指輪が輝いている。
「あの人達が俺の人生に絡んでくることはもうないよ。きっとね」
父親は魔法至上主義者であると同時に権威主義者だ。
侯爵家の姉妹の婚約者となり、自分よりも上に立った息子を刺激することはしないだろう。
義母が馬鹿なことを仕出かす可能性はあったが、彼女は小物である。いったい、何ができるというのだろう。
(そして、セドリック……)
レストが知っているセドリック・エベルンはこの世にいない。
もう二度と、レストとローズマリー姉妹の前に姿を現すことはないだろう。
「だから……もう大丈夫だ。ありがとう……」
「「…………」」
穏やかに笑うレストであったが……ローズマリー姉妹がわずかに表情を曇らせる。
曲がりなりにも家族である人間と縁を切り、捨ててきたレストが無理して気丈に振る舞っていると思ったのだろう。
「よーし! それじゃあ、今日はお祝いにみんなでお風呂に入りましょうっ!」
「は……お風呂?」
「そうよ! いらない物を全部洗い流したってことで! 綺麗さっぱりしましょうよ!」
ヴィオラは顔を真っ赤にして、そんなことを提案してきた。
トマトのような色になっているヴィオラの顔に、レストは唖然とさせられる。
「いいですね! さすがはお姉様です!」
プリムラが即座に同意する。
こちらは両手を合わせて、満面の笑顔で。
「レスト様は新しい一歩を踏み出すのですから、まっさらになった気持ちでみんなでお風呂に入りましょう! 大丈夫、私達は婚約者なんですから!」
「い、いや……婚約者になる前からわりと頻繁に一緒に入浴していたような……」
「きょ、今日から寝室も一緒で良いわよ? 私は全然……うん、全然平気だから……!」
「ヴィオラは全然平気の顔じゃないぞ……そんなに恥ずかしいのなら、言わなければいいのに……」
提案者であるヴィオラは今にも顔から火が出そうな状態になっている。
レストが落ち込んでいると思って、元気を出してもらうために必死なのだ。
「……大丈夫、もう元気出たよ」
そんな姉妹の姿にレストは苦笑する。
自分のためにそうまでしてくれる婚約者がいて、くだらない元・家族のことなんて気に病むものか。
「そんなに無理しなくたって、二人のおかげで元気が出ているよ。本当に……君達と会えて良かった……」
「レスト……」
「レスト様……」
三人の間に甘く、温かな空気が流れる。
しかし、すぐにプリムラが悪戯っぽく口を開く。
「でも……お風呂は一緒に入りましょうか。ベッドも三人で寝られるように、二つのベッドを並べてくっつけてもらいましょう」
「「ええっ!?」」
「大丈夫。私達は婚約者なんですから……お母様も避妊すれば問題ないって言ってましたよ?」
照れる様子もなく爆弾を投下してくるプリムラに、ヴィオラとレストはそろって身体をのけぞらせるのであった。
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