第43話 大型犬に懐かれた
実技試験を終えた魔法科の受験生はグラウンドから講堂に移動した。
これから簡単な面接があるとのことで、自分の順番が回ってくるのを待っているところである。
「おい……アイツは……」
「ああ、あり得ないよな。三百点越えなんて……」
「もしかして、貴族の出身なんじゃないか? 名のある魔法使いの落胤とか?」
(少し、目立ち過ぎたみたいだな……まあ、手加減するつもりもなかったが)
講堂で待機している受験生の話題に上がっているのは、やはり実技試験で最高得点を取ったレストについてだった。
他の受験生の平均が六十点であるのに対して、レストの点数は三百八十七点。アベレージの六倍以上の点数を取っている。
明らかに格の違いを見せつけたことで、変に目立ってしまったようである。
「クソ……どうして僕が……
受験生の多くが畏怖と興味を込めてレストのことを見つめる中で、セロリ少年だけが憎しみを込めた眼差しを送ってくる。
よほど負けたことが悔しかったのか、視線で呪い殺そうとしているような目をしていた。
(嫉妬深くて負けず嫌いなところも愚兄に似ているな……名前が似ると、性格の悪さまで似るのか……?)
ひょっとすると、姓名判断というのは当たるのかもしれない。
もしも自分に子供が生まれる日が来たら、しっかりと名前を考えようと心に決めた。
「いやあ、さっきのはすごかったなあ! どうやったら【火球】であんな威力が出せるんだい?」
そんな中で、ユーリ・カトレイアが隣に座って親しげに話しかけてくる。
試験前に会ったからか、やたらと馴れ馴れしい態度だった。
「複数の魔法を発動させていたようだけど、そこに何か秘密があるのかな?」
「……ええ、まあ。そうですけど」
「すごいなあ。君みたいな魔法使いと一緒に試験が受けられるなんて光栄だよ! もしかして、有名な魔術師の子孫だったりするのかい?」
「…………」
初対面だというのにズカズカと遠慮なく踏み込んでくる。
それでも、何故か不快に感じないのはユーリに悪意や下心がまるで感じられないからだろう。
(無邪気というか、天真爛漫というか……あまり貴族っぽくない娘だな)
カトレイア侯爵家の名前を名乗っているが、本当に侯爵令嬢なのだろうか?
同じ侯爵令嬢なのに、ヴィオラともプリムラとも違うタイプである。
「えっと……カトレイアさんはどうして魔法科を受験されたんですか?」
「え? どういう意味だい?」
「いえ……正直、魔法科よりも騎士科の方が合っているように感じたものでして」
魔力による強化無しで【身体強化】を使用したレストと並んで走り、試験では石を投げて百点越えの点数を取っていた。
どう考えても、魔法よりもフィジカルの方が優れているように見える。
「あー……騎士科はカトレイア侯爵家の影響力が強いからな……」
「…………?」
「あそこには父の部下だった人間がいるからやりづらいというか、忖度で落とされる可能性が……いや、まあ。色々とあるんだ。事情がね」
「そうですか……詮索するようなことをして申し訳ありません」
「機会があれば腹を割って話そう。その時は君の強さの秘密も教えてくれると嬉しいな」
「……そうですね。機会があれば」
そんな機会が来るだろうか?
学園に入学すれば親交を深める時間もあるかもしれないが、二人とも合格できるかどうかわからない。
(俺は合格している。たぶん、間違いなく……)
筆記試験は九割以上は正答できている。
実技試験は本日試験を受けた受験生の中で最高得点。
不合格になるような理由がなかった。
(でも……彼女はどうだろう。申し訳ないけど、不合格な気がするんだけど……)
石を投げて的を攻撃するという方法で合格できるとは思えない。
(魔法で石を作っていたからギリギリ魔法攻撃と認められるのか? いや、普通はアウトだと思うんだけど……)
「次、ユーリ・カトレイアさん。奥の部屋まで移動してください」
「ああ、私の番だ。また後で」
「……はい。後で」
ユーリが面接を受ける順番がやってきた。
レストに笑顔で手を振りながら、講堂から出ていった。
(……妙に親しげだったな。そんな関係縮めるような出来事があったっけ?)
塔から落ちたところを助けたが……それだけである。
ヴィオラとプリムラを狼から助けた時もそうだったが、もしかして、女子にとってよほど重要なイベントだったのだろうか?
(ユーリ・カトレイア……何か事情があるようだけど、旦那様に報告した方が良さそうだな。ヴィオラとプリムラには……どうしようかな)
何故か話すのが怖いが、黙っていて後でバレるのも恐ろしい。
成り行きでユーリを助けて懐かれたことを話したら、ヴィオラとプリムラはどんな反応をするだろうか?
(怒る……いや、怒られるようなことはしていないはず……だよな、たぶん?)
これから面接があるというのに、レストは正体不明の悪寒に背中を震わせるのであった。
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