第24話 プリムラ・ローズマリーは負けられない
(ごめんなさい、姉さん……プリムラは意地悪な子になってしまったみたいです)
レストに勉強を教えながら、プリムラ・ローズマリーは最愛の姉に心の中で謝罪をした。
長い付き合いである。ヴィオラのことだったら何だってわかる。
余裕綽々といったふうにレストに抱き着き、バストを押しつけているヴィオラであったが……内心ではかなり余裕がなく、混乱していることをプリムラは見抜いていた。
(姉さんも本気みたいですね……私に対抗してネグリジェを着るところまでは予想していましたけど、まさかここまでするなんて)
レストに抱き着き、スリスリと頬を寄せながら……プリムラは姉の本気を感じ入った。
ローズマリー姉妹はどちらもネグリジェ姿。
部屋着として使っているその服はそこまで露出が大きいというわけではないものの、男子の前に出るには抵抗があるような服である。
最初にネグリジェを着てレストの前に出ようとしたのは、活発なヴィオラではなく、内向的なはずのプリムラの方だった。
(私は姉さんのように美人じゃないし、魅力もない……だから、少しでもレスト様に意識してもらえるように頑張らないと!)
自信のないプリムラはそんなことを思って、あえて大胆な服を選んだ。
その効果は抜群。
レストは姉妹の格好に、押しつけられた胸にあからさまに反応していた。
(レスト様ってば、こんなに赤くなって可愛い……!)
首まで真っ赤にしているレストに対して、プリムラは小動物でも愛でるような表情になる。
プリムラは昔から、男性が苦手だった。
侯爵令嬢、本人の自覚は薄いがはかなげな雰囲気の美貌の持ち主のため、貴族同士の集まりでは男性から声をかけられることが多かったが、彼らに恐怖以外の感情を抱いたことはない。
先日、セドリック・エベルンに接触した際にも、胸に不躾な視線を送ってくる男に不快感しか抱かなかった。
(それなのに……どうして、レスト様は平気なのかしら?)
しかし、不思議なことにレストに対して恐怖も不快感もない。
これまで男から視線を向けられるのを嫌がっていた胸も、レストに見られるのであれば平気だったし、むしろ意識してもらえるのが嬉しかった。
羞恥がないというわけではなかったが……自分の容姿が思いを寄せる男性に気に入ってもらえたことが、恥じらいを超える喜悦と優越感を与えてくる。
(姉さんよりも少しだけ大きな胸……これが役に立つ日が来るとは思いませんでした……)
顔立ちが似通っている姉妹であったが、胸だけはプリムラが大きい。
そのことを恥に思えど、嬉しいと思ったことはなかった。
(でも……これから、この胸が武器になるかもしれません。姉さんに勝てるのはこれくらいでしょうから)
「ウッ……!」
深い谷間で包み込むようにレストの腕に抱き着くと、ビクリと肩を震わせて反応する。
やっぱり、可愛い……プリムラは口元の笑みを深めた。
「ムッ……!」
ヴィオラがプリムラに対抗心を燃やして、レストに抱き着いた。
(さすがは姉さん……だけど、私は負けるわけにはいきませんっ!)
ヴィオラは昔から、自分より強い男と結婚すると主張している。
それがローズマリー侯爵家にとって利益になるからと、御家の発展のために自分を犠牲にするようなことを口に出していた。
プリムラはそんな意思の強い姉を自慢に思いながら、コンプレックスに感じながら、同時に姉の将来を心配していたのだ。
(そんな姉さんに好きな男性ができたのは嬉しいです。だけど、レストさんだけは譲れません……!)
姉妹で同じ人を好きになってしまうなんて、何という運命の悪戯だろうか。
かつてのプリムラであったのなら、姉の幸せのために身を引いたかもしれない。
しかし、本当の恋を知ったことで考えが変わっていた。
(太陽のような姉が、私の好きな男性と結婚する。自分は一生、月として影にいる……)
それを笑って祝福できるほど、プリムラは大人にはなれなかった。
レストのことは渡せない。譲れない。
十年後、二十年後、自分の傍にいるのはレストしか考えられない。
彼以外と結婚なんてできない。彼以外の子供なんて産みたくはない。
そんな思いは時間を経るごとに強くなる一方で、プリムラの心を熱く焦がしていた。
(こんなの初めて……これが恋なんですね……)
表向きは堂々と、しかしテンパりながらレストに『お仕置き』をする姉を見つめる。
レストのことが愛おしい、同時にヴィオラのことが愛おしい。
同じ男性を好きになってしまったことは不幸なことだったかもしれないが……それを誇りに思っている自分もいる。
(姉さんのことを出し抜いたりはしません。私はレストさんと同じように、姉さんのことが大好きなんですから)
姉に譲れない。姉を傷つけられない。
それならば……とるべき選択肢は一つしかなかった。
(私が第二夫人で構いませんから。レスト様を一緒にお迎えするのも悪くないかもしれません。一緒にレスト様の子供を産んで、二人で育てるのも楽しそうです)
ヴィオラが聞いたら混乱して卒倒しかねないことを考えながら、プリムラはレストの腕に豊満な胸を押しつけ、愛しい男性の身体に指を滑らせるのであった。
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