第23話 ヴィオラ・ローズマリーは混乱する


(ああ……私ってば、なんてエッチなことをしているのかしら……!)


 レストに勉強を教えながら身体を寄せて、ヴィオラ・ローズマリーは内心で身悶えた。

 許されるのであれば、恥ずかしさのあまり床を転がり回りたい気分だ。

 平然と胸を押しつけているように見えるヴィオラであったが、実際にはそれほど余裕があったわけではない。

 双子の妹……プリムラへの対抗心から、必死になって羞恥心を押さえているだけである。


(うー……どうして、プリムラは平気なのよ……同い年の男の子とこんなに密着して、おまけにすごくいやらしい格好を……!)


 ヴィオラが着ているのは黄色のネグリジェである。

 部屋着として使用しているものであり、言うほどエッチな服というわけではない。

 しかし、最近になって目立つようになってきた胸の谷間はしっかりと見えてしまうし、生地も薄い。

 家族や同性相手ならばまだしも、間違っても同世代の男子の前に出て良い格好ではなかった。


(本当はこんな服を着るつもりじゃなかったのに、プリムラが着てたせいよ……)


 今日からレストに勉強を教えることになったヴィオラであったが、ネグリジェ姿でするつもりなんてなかった。

 普段使いしているラフなドレスを着るつもりだったのだが……妹のプリムラが水色のネグリジェで出てきたのだ。

 妹のあまりの大胆さに赤面するヴィオラに、プリムラは勝ち誇ったように微笑みを向けてきた。

 ヴィオラは対抗心を燃やして、すぐさま色違いで購入したネグリジェに着替えたのである。


「レスト様、この問題はこちらの参考書を読むとわかりやすいですよ?」


「えっと……これで良いのかな?」


「エクセレント! 素晴らしいです!」


 レストが問題を解くと、プリムラが褒め称えながら抱き着く。

 ヴィオラもすぐさま対抗心を燃やして、反対側から身体をくっつけた。


「すごいわ、レスト! その調子ね!」


(そ、そもそも……プリムラはズルいのよ! 普段から大人しくて、私の後ろに隠れてばっかりいるのに……どうして、レスト君に対してはこんなに積極的なのよ!)


 ヴィオラにとって、プリムラは可愛い妹である。

 目に入れても痛くはない……命と引き換えにだってできる魂の半身。心臓にも等しい存在だった。

 守るべき対象であったはずの妹だったのに……それが今や、一人の男性を巡って巨大なライバルとして立ちふさがっている。


(わ、私の知らないところで成長したっていうの? それとも、レスト君が特別だったから? 胸だってあんなに成長して……このままだと、レスト君を取られちゃう!)


 髪と瞳の色、性格以外はほとんど同じローズマリー姉妹であったが、何故か胸のサイズだけはプリムラの方がやや大きい。

 これまで、ヴィオラはそのことを気にしたことはなかったのだが、今になって妙に鼻についてしまう。

 女としての武器で劣っている気がして、より焦燥を駆り立ててくるのだ。


「あ、それじゃあ姉さん! ご褒美の代わりに『お仕置き』をして差し上げるというのは如何でしょう?」


 レストが簡単な問題でケアレスミスをすると、プリムラがそんなことを提案した。


(お、お仕置き? ちょ……プリムラってば、何を言い出すのよ!? 何をっ!?)


「それがいいわ! プリムラ、良いことを言うわね!」


 胸の内で焦りながら、ヴィオラは正反対のことを口にした。

 十五歳とは思えないほど色気のある表情で瞳を潤ませているプリムラを見ると、引くに引けなくなってしまうのだ。


「それじゃあ、お仕置き。行くわよ……!」


「レスト様、どうかお覚悟を……!」


(ちょ……私ってば、夫でも恋人でもない男性になんてことを……ヒャアアアアアアアアアアアッ!?)


 ヴィオラが双子の妹にならって手を伸ばして、レストにお仕置きを敢行する。

 実はテンパりまくっているヴィオラは今にも倒れてしまいそうなほど目を回しながら、それでも恋しい男性の身体に指を這わせるのであった。


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