第17話 侯爵は嫉妬する
「グッ……」
執事の攻撃を受けて、レストが前のめりになって倒れる。
目にも止まらぬ速度の一撃。まるで瞬間移動のようだった。
ローズマリー侯爵家の執事であるディーブルにとっての切り札の魔法……【
「レスト!」
「レストさん!」
倒れたレストを見て、ローズマリー姉妹が悲痛な叫びを上げた。
すぐさまレストに駆け寄って身体を調べる。
いくつか打撲はあるが、大きな傷はなさそうだった。
「ちょっとディーブル! やりすぎでしょう!?」
「そうですよ! ここまでやることないじゃないですか!」
姉妹がそろって執事を睨みつける。
激しい怒りを向けられた執事は言い訳をすることなく、直角に腰を折って頭を下げた。
「……申し訳ございません。お嬢様」
「落ち着け、娘達。今のは模擬戦の中での出来事。ディーブルを責めるな」
「お父様!」
「そんなことよりも……彼の手当てをしてあげなさい」
「ッ……!」
姉妹が慌てた様子で、レストの治療を始める。
執事が頭を上げて、庇ってくれた主人……アルバートに目礼をした。
「構わん。それよりも……お前の目から見て、彼はどうだった?」
「……おそらく、旦那様と同じ意見かと存じます」
アルバートの問いに執事が恭しく答える。
「あの少年……レスト様はローズマリー侯爵家が後援するにふさわしい実力を備えていると、私が保証いたします」
「そうか、そうだな……」
それはアルバートも思っていた。
レストは魔法使いとして、年齢にそぐわぬ卓越した技量を持っている。
まだ経験不足、知識不足な面はあるかもしれないが……いずれは宮廷魔術師の筆頭である自分すら超える魔法使いになるだろう。
「あの少年はいずれ歴史に名を残すような大魔法使いになるでしょう……お嬢様のどちらかの伴侶にしてでも、当家に取り込む価値があるかと」
「…………」
執事が姉妹に聞こえないよう、小声でささやいてくる。
それもアルバートが考えていたこと。考えてしまったことである。
ローズマリー侯爵家には二人の娘がいるだけで男子がいない。いずれは姉妹のどちらかが婿を取って、家を継ぐことになる。
娘を深く愛しているアルバートとしては、家柄に拘らず娘が望む相手を伴侶としたいと考えていた。
できることなら、魔法使いとして優れた才能がある人間であれば好ましいと思っており、セドリックや同年代の少年らと交流の機会を持たせている。
(この少年……レスト君ならば申し分はない。しかし……)
レストは強い。
まだまだ粗削りな部分もあるが、これから経験を積んで学んでいけば魔法使いとして大成することだろう。
確実に侯爵家に取り込むべき人間だと断言できる。
だが……そんな考えとは裏腹に、納得しかねる部分もあった。
「大丈夫よ、レスト。すぐに治癒魔法をかけてあげるからね!」
「私達がついています。大丈夫です、レストさん……!」
ヴィオラとプリムラ。
アルバートが愛する娘二人が倒れたレストにしっかりと寄り添っており、献身的に看護をしている。
どちらかどころか、二人ともレストに好意を抱いているのが丸わかりである。
(娘の婿にするのは……まあ、良いだろう。だが、もしかすると二人とも取られてしまうのか……?)
ヴィオラとプリムラは仲が良い姉妹で、性格は正反対。
しかし、根っこの部分はアルバートの妻……つまりローズマリー侯爵夫人とそっくりである。
つまり、大切なところは絶対に譲らない頑固さを持っていた。
いかに姉や妹が相手であったとしても、そうと決めた男性を譲ることはしないだろう。
(レスト君、君の才能は認める。娘を助けてくれたことには感謝もしているし、学園入学試験を受けるための推薦状も書こう。だが……!)
「……娘を二人もやるとは言ってない!」
まるで愛する恋人に寄り添うかのような娘二人の姿に、ローズマリー侯爵は血の涙を流して叫ぶのであった。
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