第31話 来る
休み明けの月曜日。
「あぁ……朝だ……」
少しだけ憂鬱な気分で目覚めた僕は、制服に着替えて学校に行く準備をしていた。
「おにーちゃん、おっはよー!」
すると、元気のいい挨拶と共に部屋の扉が勢いよく開け放たれる。
「…………おはよう」
僕は、朝から元気な弟に挨拶を返した。
「あ、あれ……起きてる……!」
「僕だってたまには早起きくらいするよ」
「めずらしー!」
そう言って、曇りなき
「写真撮ってみんなに見せようかな!?」
僕が早く起きただけで、珍獣を発見したような反応をしないでほしい。
「なんてね。……まあ、お兄ちゃんがソワソワするのも分かるよ。今日はいよいよあの日だもんね!」
「え……?」
あの日とは一体?
「な、何かあったっけ……?」
「またまた~、とぼけちゃって~!」
湊はニヤニヤと笑いながらこちらを見る。
本当に知らないんだけど……。今日が誕生日の家族もいないし……。
僕は部屋の壁にかけてあるカレンダーへ目をやるが、何かの記念日というわけでもなさそうだった。
「渚なんか一ヶ月前くらいから落ち着きがなかったし。みんな浮かれすぎだよね!」
「あ、あはは……」
よく分からないけど、とりあえず話を合わせておこう。大切な日だったら、覚えていない僕には人の心がないことになっちゃうから……。
「まあ、渚が一番来るのを楽しみにしてたから、仕方ないけど!」
「く、来る……?」
いや、おかしい! 来るってなに!?
明らかに異様な空気を感じ取り、全身に鳥肌が立つ。
「今日はボクも渚も部活休んで早く連れて帰ってくるから、お兄ちゃんも学校終わったらすぐに帰ってきてね。寄り道しちゃダメだよ!」
「し、しないけど……」
僕は常に最速で帰宅している。一緒に寄り道する友達がいないから。
「みんなで『おもてなし』しなくちゃね!」
「ひっ……!」
……分かった! こういう不気味な展開、ホラー映画で見たことある!
僕以外の家族が何かに取り憑かれておかしくなってしまったんだ!
その時、僕は理解してしまった。
今日の放課後、この家に何らかの恐ろしい怪異がやって来ることを。
――とにかく、今すぐ月城さんに相談した方が良さそうだ。
「み、湊っ! お、おおお兄ちゃん、今日は晴れやかな気持ちだから早く学校に行くね!」
「え……? う、うん、分かった……。気をつけてね」
「い、行ってきますっ!」
かくして、僕は湊を残して部屋を飛び出し、作り置きしてあった朝ご飯をかき込んで外へ出るのだった。
家の中で対策を打とうとすると、取り憑かれている湊たちに妨害されてしまうかもしれない。これは戦略的撤退だ……。逃げたわけじゃない!
嘘です怖くて逃げました! ごめんなさい!
「ご、ごめんね、湊、渚……! お兄ちゃん、絶対になんとかするから……っ!」
僕は慌ててスマホを取り出し、月城さんに電話した。
「…………………………出ない!」
しかし、月城さんはいつまで経っても電話に出ない。
仕方ないので、代わりにメッセージを送ることにする。
【大変です月城さん。僕の家族が得体の知れないものを家へ招こうとしています。放課後に何かが来てしまいます。助けてください】
これでよし。冗談みたいな文面だけど、妖魔を祓う仕事をしている月城さんだったら分かってくれるはずだ。どうか気づいて……!
僕は祈りながら電車に乗り、ひとまず学校へ向かうのだった。緊急事態なのに、変なところで真面目だなぁ……と、我ながら思う。
*
そんなこんなで学校に到着した。
【いつき君! キミから連絡してくれるなんて、お姉さん嬉しいナ! ケド、妖魔の仕業じゃなさそうだからお姉さんには何もできないヨ…(泣)力になれなくてゴメンネ…。ガンバッテ!!!】
月城さんは駄目そうだった。
「………………」
もはや、僕一人の力でどうにかするしかない。
「うぅ……一体どうすれば……」
僕は肩を落として呟く。
「……教室行こ」
そして、そのまま上履きに履き替え、廊下を通って教室に到着した。
「学校は楽しいな……安全だから……」
現実逃避をしながら授業を受けていると、あっという間に家へ帰る時間がやって来てしまう。
月城さんはあてにできないので、僕一人でこれから家に来る何かを退散させるしかない。
僕がやらなきゃいけないんだ……!
どうにか覚悟を決め、いつもよりさらに急いで家に帰る。
――思えば、突然超能力に目覚めてから、色々とおかしなことばかり起きるようになった。
けれど、その度にこの力で沢山の妖魔を爆発四散させてきたのである。
経験を積んだ今の僕なら、どんな相手が来ようと戦えるはずだ。
絶対に家族のことを守ってみせる……!
僕は自分の家の前で拳を固く握りしめた。はたから見たら変な人である。
早く中に入ろ。
「た、ただいま~……」
言いながら恐る恐る扉を開けると、まだ誰も帰ってきていない様子だった。
電気が点いていないので、廊下が薄暗い。ちょっと不気味だけど、今のところ何かが来ているような気配もないみたいだ。
僕は生唾を飲み込む。
「く、来るなら……いつでも来やがれってんだ……!」
怖い時の湊の口調を真似をして自分を鼓舞してみたけど、あまり効果がなかった。
乱暴な言葉遣いをすれば勇気が出るというわけでもないらしい。
「やっぱり来ないでください……」
僕はとりあえず玄関の鍵を閉めて、自分の部屋でじっと待つことにする。
「あ、そうだ……」
――よく考えたら今日はバイトの日だし、妖魔検知器が反応しないかも見ておこう。
ひょっとすると、これから来る何かの等級も測れるかもしれない。そう思った僕は、机の引き出しから検知器を取り出した。
「こ、これは……!」
そして驚愕する。
なぜなら、それは既に最上級の危険度と月城さんから教えられた『X』を指し示していたからだ。
「そ、そんな……!」
とんでもない脅威が近づいていることを知り、絶望し、頭が真っ白になる僕。
「終わった……」
思わずそう呟いた次の瞬間――
がちゃり
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