第43話 「八百八狸 対 千尾狐 弐」

 「おぉぉぉぉ!!!!」

 ガキィィィン!!! 八百八狸やおやだぬき千尾狐せんびぎつねの両軍が刀を激しくぶつけ合う。その差は拮抗きっこうしているようにも見えるが、数で上の千尾狐軍がわずかに優勢。すると八百八狸達が葉を頭に乗せ、指を結ぶ。ドロン! 煙に全身が包まれると、中から熊や狼、虎などの猛獣が飛び出し、千尾狐達を襲う。するとすかさず、千尾狐達も同じく葉を頭に乗せ、猛獣に変化へんげする。両軍様々な獣達が入り乱れる中、八百八狸軍として戦っているしゃらくが、千尾狐達を次々とぎ倒している。

 「おらァァァ!!」

 バゴォン!! しゃらくに殴り、蹴り飛ばされた狐達が吹き飛ぶ。しかし狐達がまと甲冑かっちゅうは頑丈で、狐達はムクリと立ち上がり、再び向かって来る。

 「しつけェなこの野郎!」

 すると、向かって来た狐の一人が頭に葉を乗せ、巨大な熊に変化する。

 「何ィ!!?」

 熊に変化した狐が、しゃらくに襲い掛かる。しゃらくは熊の両前脚を掴んで止める。

 「くっ・・・!!」

 「グオォォォ!!」

 しゃらくの眼前で熊が吠える。するとしゃらくが、熊の両前足を払い、熊の腰にガッと両腕を回す。熊は一瞬怯むもすかさず、自らの腹に抱きつくしゃらくの背中に、鋭爪えいそうを振るう。

 「ゔっ・・・!!」

 背中を鋭い爪で引っ掻かれたしゃらくが、顔をゆがめる。しゃらくの周囲を囲む狐達が嘲笑ちょうしょうする。

 「ハハハ! いくら強かろうと所詮しょせんは人間! 我々獣の力には手も足も出まい!」

 すると、しゃらくがニヤリと不敵に笑う。

 「誰に言ってんだァ?」

 そう言うと、しゃらくの顔や体に赤い模様が浮かび上がり、抱き抱えた熊の巨体を持ち上げる。熊が慌てて脚をバタバタと振る。それでもしゃらくは後方へ体を反らし、熊の脚はどんどんと地面から離れていく。

 「おらァァァ!!!」

 ドオォォン!!! 持ち上げられた熊は、そのまま勢いよく頭から地面に叩きつけられ、白目を剥いて気絶する。周囲の狐達は目を丸くし唖然とする。

 「久しぶりだぜ。熊との相撲はァ」

 危機感を覚えた周囲の狐達は、それぞれ猛獣に変化し、牙を剥き出してしゃらくを囲む。

 「ガルルル! かかって来い!」



 一方ウンケイの方も、虎や狼に変化した狐達に囲まれている。

 「おいおい厄介だな。変化の術は」

 薙刀を構え、周囲の猛獣達を睨む。すると一頭の虎がウンケイに飛び掛かる。ウンケイは薙刀なぎなたを振り、虎を払う。すると今度は狼がと、次々に猛獣達が襲い掛かって来る。ウンケイはそれを薙刀一本で、たくみにさばいていく。

 「くそっ! 数が多い」

 すると一頭の狼が、隙をついてウンケイの腕にかぶりつく。

 「うっ・・・!!」

 ウンケイは腕をブンブンと振るが、狼はこの腕噛みちぎらんとばかりに、食らいついている。その間も他の猛獣達がウンケイに襲いかかるが、ウンケイはもう片方の手に握った薙刀を振り、猛獣達を払っている。しかし猛獣達はすぐに立ち上がっている。

 「・・・らちが明かねぇな」

 するとウンケイが、片腕を狼に噛ませたまま、両腕で薙刀を持ち、頭上でくるくると回し出す。その風圧により、周囲の猛獣達は動けない。

 「風車かざぐるま!」

 ブゥオォォン!!! 回転の遠心力を利用し、ウンケイが薙刀を振る。それを受けた猛獣達はたちまち吹き飛んでいく。一部始終をウンケイの腕で目の当たりにした狼が、目を丸くしている。するとウンケイが腕を持ち上げ、狼をギロリと睨む。

 「・・・!!」

 すると狼はウンケイの腕から離れ、ボン! と体が煙に包まれる。

 「ん?」

 ウンケイが薙刀を向ける先、煙の中から出て来たのは一匹の子狐で、目に涙を一杯に浮かべ、舌をダラリと出し、仰向けに寝て腹を見せている。

 「なんだお前ガキじゃねぇか」

 そう言うとウンケイは薙刀を下ろし、きびすを返して背を向ける。

 「ガキが戦なんかに首突っ込むな。さっさと帰れ」

 ウンケイが背を向けたままそう言うと、その場を去る。

 「・・・!?」

 すると子狐は、ウンケイの背中をキラキラとした目で見つめる。

 「・・・アニキ」

 そうつぶやくと子狐は、ウンケイの後を追いかけていく。



 千尾狐の本陣にて、戦況を見つめる白尚坊はくしょうぼうの前に、六人の幹部達が立っている。

 「俺達もそろそろ行くかぁ」

 幹部の梶ノ葉かじのはが手をパキパキと鳴らしながら、前へ歩いていく。

 「フフ。そうだな。では梶ノ葉、イナリ、コックリ、八尾はちおよ、戦況をひっくり返して来い。タマモとキンモクはここに残れ」

 「はっ!」

 六人が一斉に返事をすると、梶ノ葉、イナリ、コックリ、八尾の四人が戦の中へ駆けて行く。

 「フフフ。とくと暴れて来い」

 白尚坊がニヤリと笑う。



 激しい戦いが行われる中、千尾狐達を一人で次々と薙ぎ倒している竹伐たけきり兄弟の長男、竹蔵たけぞうの背後でズシーン! と大きな土煙が上がる。竹蔵が振り返ると、土煙の中から梶ノ葉が現れる。

 「竹蔵ぉ〜。派手に暴れやがってぇ」

 梶ノ葉がニタッと笑う。すると竹蔵の方も梶ノ葉を見て、ニッと笑う。

 「やっと来たか梶ノ葉。尻尾巻いて逃げたのかと思ってたぜ」

 「ギャハハ! お前こそ逃げるなよぉ!」

 ガンッ!! 目にも止まらぬ速さで、竹蔵と梶ノ葉がぶつかり合う。激しくぶつかる両者は、互いにニヤリと笑っている。



 一方、狐達を薙ぎ倒しながら戦場を駆けるウンケイと、その後を付いて行く子狐。

 「おい! いい加減どっか行きやがれ!」

 ウンケイが狐達を倒しながら、子狐に唾を飛ばす。

 「アニキアニキ! おいらは“コンきち”! おいらを子分にしてくれ!」

 コン吉と名乗る子狐が、キラキラとした瞳でウンケイの羨望せんぼうの眼差しを向ける。

 「は!? 何言ってんだてめぇ」

 刹那せつな、ウンケイがコン吉の前に立ち、薙刀を振る。ガキィン! 一見いっけんくうを切ったように見えた薙刀は何かをとらえ、甲高い金属音が鳴り響く。コン吉は目を丸くし、口をあんぐりと開けている。

 「ダレ? 何シテルノ?」

 すると、ウンケイとコン吉の背後で声がする。振り返ると、千尾狐の幹部の一人、コックリがコン吉を見つめている。

 「また、いつの間に・・・」

 ウンケイの額を一滴の汗がタラリと流れる。



 一方の竹伐り兄弟の次男、竹次たけじの前に、幹部の八尾が立ち塞がる。

 「・・・」

 「・・・」

 互いに無口な二人は、静かながら激しく睨み合う。



 「よう。チビ人間」

 しゃらくの前に、幹部のイナリがニヤニヤと笑って近寄る。

 「よォ、ヒョロヒョロ。彼女はどうした?」

 しゃらくもニヤッと笑う。

 「お前らみたいな野蛮人の前に連れて来るかよ」

 「じゃア守って貰えねェんだな。可哀想に」

 「何だとこらぁ!」

 イナリが懐から数枚の笹の葉を取り出し構える。しゃらくも赤い模様を全身に出現させ構える。二人は火花が散るほど睨み合う。

 完

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