第24話 「野良猫」

 身構えるしゃらくの前に、全身に黒々と輝くよろいまとったビルサがニヤニヤと笑っている。

 「グフフフ。あわれだな。貴様ごとき野良猫の爪が、十二支えと将軍の幹部に届くことは到底無い事が分かったか?」

 「いや、そう来なくちゃ盛り上がらねェ。野良猫ナメんなよ」

 ヒュッ!! そう言うと、しゃらくがビルサに向かって跳び出す。ビルサの方はニヤニヤと笑いながら、身構える事もなく突っ立っている。ガキィィン!! しゃらくがビルサの鎧に鋭い爪を振るうが、火花が上がり弾かれる。更にビルサが胴に纏った鎧には、傷一つ付いていない。するとビルサが、腕を高速回転させ振りかぶる。すかさずしゃらくが後方に宙返りして間合いを取る。

 「かってェなァ」

 しゃらくが自分の爪を見ると、爪が少し欠けている。

 「自慢の武器が刃こぼれしたか? そりゃあそうだろう。この鎧は鉄をも砕く鉱石で出来ている。我が神通力じんつうりきってのみ加工する事の出来る最高硬度の鎧だ」

 そう言いながら、ビルサが自らの鎧をコンコンと叩く。

 「へっ! 言ってろよ!」

 そう言うと、しゃらくが自分の爪同士をガシガシとぶつけ出す。それをビルサが首を傾げて見ている。すると、しゃらくの爪が更に鋭く尖り、ピカピカに輝く。

 「研げばいい」

 しゃらくがビルサに爪を見せ、ニヤリと笑う。

 「グフフ。猫め」

 ギュイィィン!!! ビルサが再び腕を回転させる。すると、おもむろにしゃらくが身をかがめ、つんいの姿勢になる。それを見たビルサが眉をひそめる。

 「何の真似だ?」

 「ガルルル!」

 ヒュッ! しゃらくが姿を消す。刹那せつな、ガキィィィィン!!!! ビルサの体に大きな衝撃が走り、後ろへよろける。見ると鎧の胴部分に、三本の大きな直線の傷が付いている。

 「何・・・!!?」

 驚いたビルサが後ろを振り向くと、しゃらくが四つん這いのまま、こちらを見ている。

 「貴様・・・一体何を?」

 「自慢の鎧に傷が付いたなァ」

 しゃらくがニヤリと笑う。ビルサは険しい顔つきになる。

 「小癪こしゃくな」

 そう言うと、ビルサが腕を回転させ、物凄い勢いでしゃらくに向かって来る。しかし、しゃらくは四つん這いのまま動かず、ニヤリと笑っている

 「“螺旋突急らせんとっきゅう”!!」

 ギュイィィン!! ビルサが、回転する腕を振るう。しかし、そこには既にしゃらくの姿は無い。刹那、ビルサの背後に殺気が走る。すぐにビルサが振り向くと、そこではしゃらくが拳を振りかぶっている。

 「“無爪猫拳くろねこ”ォォ!!!」

 ドォォォン!!! しゃらくがビルサの頬を殴り飛ばす。ビルサの巨体が宙を舞う。するとさらに、ビルサが吹っ飛ぶ先では既に、しゃらくが構えている。

 「“虎猫鼓どらねこ”ォォ!!!」

 ダァァァァン!!!! しゃらくの掌底しょうていが、ビルサの背中を突き抜ける。

 「うっ・・・!!」

 ビルサの鎧の背中部分に亀裂が入る。その衝撃でビルサの体が上を向く。すると、上空では既にしゃらくが脚を振り上げている。ビルサが目を見開く。

 「“影象踏かげふみ”!!」

 しゃらくがビルサに脚を振り下ろす。しかし、ビルサは間一髪で身をよじらせ、それをかわす。

 「貴様、図に乗りやがって!」

 ビルサが空中で、しゃらくに高速回転させた脚を振る。

 「“螺旋壊足らせんかいそく”!!」

 ギュイィィン!!! しかし、しゃらくもそれを素早く躱し、着地する。ビルサも続いて着地し、再び四つん這いになって構える。

 「・・・四つ足になると、すばしっこくなるようだな。グフフフ。野蛮な野郎だ。すぐに駆除してやる」

 一方、城壁の陰でウンケイと、その傷の手当てをするお渋の二人が戦況を見守っている。

 「ありがとよ。だが、危ねぇじゃねぇか。隠れてろよ」

 「あなた達が、町のみんなの為に戦ってくれてるのを分かって、私だけ安全な所に隠れてるなんて御免ごめんだわ!」

 お渋は、ウンケイの肩に包帯を巻き終えると、そこをバシッと叩く。

 「いて! ・・・やれやれ」

 ウンケイが頭をく。お渋はウンケイの隣に座る。

「あの人なら絶対に、ビルサを倒してくれるって気がするの。今日初めて会った人なのに・・・」

 二人が、ビルサと激しくぶつかるしゃらくを見つめる。

 「・・・どうやらあんたも俺も、博打ばくちの才能が無いらしい。わはは」

 ガキィン! ガキン! ガキン! ガキン! しゃらくとビルサが激しくぶつかり合う。

 「小僧が! ちょこまかと動きやがって!」

 ビルサが回転する腕と脚を振り回すも、しゃらくは素早く跳び回り、それを躱しつつ攻撃する。

 「“虎枯こがらし”!!」

 ガガガガガッ!!! しゃらくが、目にも止まらぬ速さで鋭爪えいそうを振り回す。ビルサは何とか回転する腕で防ぐ。すると、しゃらくがすかさずビルサに近づき、脚を振りかぶる。

 「“蹴兎しゅうと”!!」

 バキィィィ!!! ビルサの脇腹に蹴りが入り、再び鎧に亀裂が入る。

 「ぐっ・・・!」

 しかし、ビルサが怯みながらも、腕を振りかぶる。

 「“旋廻突急せんかいとっきゅう”!!」

 ドォォォン!!! ビルサが、しゃらくの脇から高速回転の拳で殴る。しゃらくは両腕で防ぐも、勢いに押され吹っ飛んでいく。

 「いってェ・・・」

 しゃらくが上半身を起き上がらせる。前を見ると、ビルサが物凄い勢いで向かって来ている。しゃらくが目を見開く。

 「“螺刺錐突急ねじきりとっきゅう”」

 ギュイィィィン!!!! ビルサが指先をすぼめ、鋭く尖ったやりのようにして、しゃらくを貫こうとする。しゃらくは何とか両手で掴み止める。しかし、その手は高速回転している為、掴んでいるしゃらくの手は、血が噴き出している。

 「あァァァァ!!」

 「グフハハハァ!! 風穴開けてやる!!」

 ズズズッ!! 必死で止めようとするも、ビルサの腕は回転して、どんどんしゃらくの体に近づいていく。すると、ビルサが追い打ちをかけるように、もう片方の腕を振り上げる。

 「グフハハハ!! 痛そうだなぁ! 今楽にしてやるよ!!」

 そう言うと、ビルサがもう片方の手も指を窄め、回転させる。

 「や、やべェ!!」

 ビルサがもう片方を突き出す。刹那、しゃらくが掴んでいたビルサの腕を蹴り、勢いのまま転がって、間一髪でもう一方の攻撃も躱す。

 「何っ!!?」

 ビルサが見ると、しゃらくは四つん這いになり構えている。

 「“豹斑牙まだらきば”!!!」

 ヒュッ!! しゃらくが目にも止まらぬ速さで、ビルサに飛びかかろうとする。すると、しゃらくが突如体勢を崩して止まる。それを見たビルサがニヤリと笑う。

 「“螺旋壊足らせんかいそく”!!」

 ドカァァン!! ビルサが回転する脚で、しゃらくを蹴り飛ばす。

 「グフハハ! 今貴様の手は、俺が斬り刻んでやったんだ。その手で走る事など出来んだろう。あの素早さは厄介だったが、、残念ながら勝負あったようだなぁ! グフハハハハ!!」

 ビルサが笑いながら回転する腕を振り、付着していた血を飛ばす。刹那、目の前にいたしゃらくが消える。

 「!!?」

 「“虎枯こがらし”ィィ!!!」

 ズババババァァッ!!!! 突如ビルサの全身が切り裂かれ、まとっていた鎧が砕け散る。

 「俺の鎧が!!」

 「お前の攻撃なんて、でもねェェ!!」

 完

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