つきとほしと太陽
佐藤凛
月と星と太陽
携帯の電源を切る。
着信なんてなかった。そもそも僕に連絡してくれる人なんていない。いや、いらない。
友達というのは都合のいい奴らが集まっただけで、なんの得もなく、ただ安心を求めてそこにいるだけ。
思い出す。そのグループで何も話していないのにも関わらずニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべて、そこにいるだけの奴。
そういう奴に限って一人の僕を見てコソコソと笑い、見下してくる。どっちの方が笑いものかよく考えれば分かるものだろうけど、そういう奴は必至だから、自分の居場所を失いたくないから友達という柵に覆われて生きている。
そんな人生は窮屈だから一人でいる。友達はいらない、いらない。
そんなことを考えながら外の空気で冷めきった鉄の塊をポケットに入れる。僕はまた歩き出す。僕の耳にはザッザッという僕の足音と冷たい風音が響いていて、他に何も聞こえない。孤独と静寂。その寂しさが僕の夜をもう少し暗くする。
今日も退屈な日が終わろうとしている。窮屈は嫌いだけれど、退屈はもっと嫌い。退屈な日々、毎日、日常。パズルのピースが足りない時と同じ感覚。
道に聳え立つ街灯は、棒の頭を照らして離れる。閑静な住宅街を僕は歩く。
しばらく歩くと、公園に出くわしたのでせっかくだから覗いてみる。公園にはブランコと小さな丘しかなく、風邪でブランコがキィキィと小さく音をたてていた。随分と退屈なつくりだなと思いつつ小さな丘の方に足を運ぶ。
小さな丘といっても登りは傾斜がきつく、軽く息が上がる。頂上に着いたので、一息してから寝転がってみる。雑草と砂が服の間から入ってきて気持ち悪い。気持ち悪いけど心地よい。そんな矛盾した感覚を抱えて夜空を見上げた。
住宅街でも星は案外光り輝いて見えた。ボーと見ていると、不意にこの星が落ちてきたらな。なんて思う。眩く光る星が、綺麗だねだとか、君の方が綺麗だとかいうカップルの頭上にゆっくりと速く近づく。やがて、僕らが眺めていたのは星ではなく
地球上の生命を根こそぎ刈り取れるほどの火の岩石だったことに気付く。
星が落ちてきて地球はパニック状態。どのようにして星から地球を守るかで国際会議を開く。どこの国がどのような方法で守るのか。予算はどのくらいかかるのか。防げた時の報酬。本来ならばいらない討論で時間を無駄にする。
しまいには防げなくなって、地球に衝突。大きな衝撃。地面は怒り狂うかのように揺れる。揺れる。揺れる。直撃した地域にはクレーターだけがぽっかりと残り、生存者なんていない。周辺の地域も炎が燃え盛る。数分後に海が高くなり、水が街を飲み込み、電気もガスも止まる。インターネットの時代に生まれた僕達は、明日生きていけるかもわかんない。
そうしたらいいな。退屈ではなくなるから。
しばらく熱中して不謹慎な妄想にかられていたが、それも退屈になってきて、僕は起き上がる。その退屈が僕の夜をもう少し暗くする。
さっきから僕は何処へ歩いてるんだろう。僕の足は完全に自宅の方向からそっぽをむいて動いているし、僕の脳は足を頼りに何も考えちゃくれない。行き場のないふらふらとした徘徊。なんだか僕は自由になった気がした。人の悩みは全部対人関係だなんて誰かが言ってたけれど、友達は消したし、僕もさっきの妄想で死んだ。だとしたら今、最も自由な人間だ。悩みもないし、自分で自分を縛り付けてもいない。ふらふらの足がだんだんとふわふわしてくる。昨日のことも今日のことも明日のことも、何にも考えなくていい。ただ、足に身を任せていればいいんだ僕は。
冷たい風が左から吹いて、僕の足は右に寄れる。家々の隙間から日が少しだけ昇ってきていて、月と星と太陽が同時に輝く。それに見とれていた僕はそこが十字路なんて気が付くはずもなくて、ましてや僕の右から法定速度をはるかに超えた車が走ってくる音なんて聞こえなくて、僕は物理法則のままに吹っ飛んだ。最後に見えたのは涙でにじんだ月と星と太陽と、車のヘッドライトの光。
そういえば携帯の電源を切っておいて良かった。友達がいないことがばれなくて済むから。
つきとほしと太陽 佐藤凛 @satou_rin
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