脳みそチャレンジの賞品
藤泉都理
脳みそチャレンジの賞品
「脳みそチャレーンジ!!!」
「は?」
七三分けの髪型で丸眼鏡をかける長身の男性執事、カクヤは、またこの人は変な事を言い出したなと、主である姫を冷めた目で見下ろした。
「もう。は?じゃないでしょ。わあ、脳みそチャレンジとは一体何ですかって。ワクワクした目で見下ろしてよ!!!」
はあ。
冷気を吐き出したカクヤは、棒読みで脳みそチャレンジとは一体何ですかと尋ねた。
「ふふん。あなた。事あるごとに言ってるでしょ。あなたの脳みその中を覗いてみたいって。だから、覗かせてあげようと思って。で。覗いた結果、私が今一番何を考えているのか当てたら、賞品をあげるわ」
「何ですか?魔法で脳みそを取り出しでもするのですか?」
「イエス!!!」
「は?」
冗談で言ったのに、まさか肯定されるとは思いもしなかったカクヤが制止する間も与えず、姫はどこからか取り出した魔法の杖で呪文を唱えて、ぱかりと頭を開くと、脳みそを取り出した、かと思えば、カクヤにも魔法をかけて彼の頭も開くと脳みそを取り出して、彼の脳みそを自分の頭に、自分の脳みそをカクヤの頭に入れては閉じたのだ。
「は?」
「制限時間は五分ね。よーい。ドン!!!」
「ちょ」
カクヤが早く魔法を解いてくださいと言う前に、訳の分からない多種多様な色が使われた絵が怒涛の如く襲いかかって来て、言葉を発する事すらできなかったのであった。
「で、どう?分かった?」
「まったく」
貧血状態に陥ったカクヤはしかし、執事としての意地を見せるべく、ふらふらの身体をピシッと背筋を伸ばして立たせては、満面の笑みの姫をとても冷めた目で見下ろした。
「ただすごいと思いました」
「え?」
「あんな文字が存在しない意味不明説明不可能な絵しか占めない頭にもかかわらず、よくも言葉を発せられるなと。しかも、まあ、ほどほどに意思疎通もできる。すごいですね。本当に。そこだけは褒めます。そこだけは」
「………はあ」
「何です?褒めているのですから素直に喜んだらどうですか?」
「うん。まあ。ありがとう。で。まったくわからなかったカクヤには、賞品はあげません。残念でした」
「別に要らなかったので残念ではありません。ああ。もうこんな時間ですか。姫様。勉強の時間です。先生を待たせていますので急ぎますよ」
「はあい」
「まったく」
銀時計を見ては、せかせかせかせかと歩き出すカクヤの背中を見つめた姫は、頬を膨らませた。
「………やっぱり、自分の口から伝えるしか、ないの、よね」
好きだって。
「あーあ。でも。カクヤだって、読めない漢字?記号?古代文字?みたいなのばっかりでさっぱり」
わからない。
そう呟こうとした瞬間。
姫の脳裏に、一瞬だけ浮かんだのは。
「姫様、急がない。姫様。顔が真っ赤ですよ。風邪ですか。これはいけない。早く医務室に行かないと。失礼します」
「え?え?い。いいいわ!走って行くから!!!」
姫は抱きかかえようとしてきたカクヤの制止を振り切って、庭を一直線に走り出した。
ドッドッドっと、心臓が飛び出す勢いで大きな音を出していた。
(あれって。あれって。写真。私の)
「~~~~~っ」
姫は叫びたい気持ちでいっぱいだった。
(2023.11.6)
脳みそチャレンジの賞品 藤泉都理 @fujitori
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