第二話・魔王代理が集落を視察しました
「失踪した魔王の代理?」
とんでもないことを言われた。なぜ俺に一国の王、ましてや魔王がつとまると思うのか。俺は数日前まで単なるサラリーマンだった男だ。
「いや、ちょっと無理があるでしょ。俺は単なる普通の、もしかしたらそれ以下の人間ですよ。しかも文明に囲まれてのうのうと平和に暮らしていただけの」
「しかし、召喚魔法が君を選んだのは何らかの理由があるはずだ。それに、新しい代理を召喚することも、君が元の世界に帰ることも、今は不可能だ」
さらにとんでもないことを言われた。元の世界に帰れない?
「どういうことですか」
「召喚魔法を発動するには莫大な魔力と、それを留める媒介が必要になる。それを君の召喚に使ってしまった。要するに、時間がかかるのだ。魔界一の魔力を誇る魔王様が帰ってこられたら、すぐにでも戻せるのだが」
どうやら嘘を言っている様子もない。しょうがない。俺も腹をくくることにした。何よりも、今の状況に少しワクワクしている自分がいる。
「わかりました。俺で良ければ、ちからになりますよ」
「ありがたい! 申し訳ないが、よろしく頼む」
黒騎士はさっきから謝ってばかりだ。さぞ気苦労の多いことだろう。
「それで、手始めに何をすれば? 先程の人々の、村の問題ですか?」
「そう。まずは我々と共に、視察に来てもらいたい。なにせ、彼ら領民の生活すらまだ把握していないのだ。我らは」
というわけで、黒騎士と修道女、俺の三人で、集落の視察に来た。予想以上にひどい。人々の住居は、細い枝を立てて、上に葉っぱを乗せているだけ。かろうじて水は近くの川から得ているようだが、器は大きめの葉っぱが殆ど。
「いくらなんでも、これはひどすぎる。なぜこんな状況に?」
「魔界から着の身着のまま逃げ出したのだ。向こうで使っていた道具も何も持ち出せなかった。全く何もない状況なのだ」
「あとでいろいろお聞きしますが、まずは住民たちの衣食住を確保しなければ」
当面の食料は、魔王城(これも城とは言い難い代物なのだが)に備蓄してあるものを、なるだけ全員が食い繋げるよう分配することにした。
備蓄分の食料も少ない。つまり出来る限り短期間で、住民の暮らしを安定させなければならない。そこで、村人や城で働く人々、魔王軍の将兵たちも総動員し、井戸を掘る班と住居を作る班、水路を作る班で分けて作業を進める。
まずは住居だ。
「竪穴式住居?」
「はい。俺の世界での、大昔の人々が住んでいた住居です。これなら人手があれば、一棟を短期間で作れると思いますので、急場しのぎにはなるかな、と」
1.まず、丸い穴を掘ります。
2.穴が掘れたら、柱を立てて、真ん中にかまどを作ります。
3.柱に、放射状に垂木を乗せて、その上から木の皮と枝を乗せます。
4.さらにその上から土を被せます。
5.完成。
ざっくり工程を説明するとこのような流れになる。修道女にお願いし、魔術師団の魔法兵たちに材木を伐採してもらう。土を掘る道具はないが、近くに落ちている石などを使い、人海戦術で掘ってもらった。
いずれは石器を作らなければならないだろう。獣人タイプなら爪があるが、人間と同じタイプはやはり道具が必須になる。
「君の世界の、祖先の技術か。いやはや、素晴らしいものだ」
気付くと、黒騎士が隣に立っていた。
「魔界にも、始祖の技術というものがあったのでは?」
「あったかも知れないが、いかんせん研究が進んでおらんので、何もわかっていないのだ。我々はずっと、戦争をしていたのでな」
穏やかではない話だ。
「急遽、ここに逃げてきたという話は?」
「ああ。突如、魔界の火山が大噴火し、瘴気が大量に流れてきたのだ。植物は枯れ、建物は朽ち、たくさんの同胞が死んだ。皆、苦しそうな顔をして」
黒騎士の肩が震える。泣いているのだろう。
「非常事態だと感じた魔王様が、急遽、生き残っている同胞全てをここに転移させたのだ。多大な魔力を使って、な」
「その噴火と瘴気は、戦争と何か関係があるんですか?」
「わからない。わからないが、連中ならやりそうなことだ」
「戦争の相手はどこなんですか?」
「天界だ」
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