魔王代理のお仕事
やざき わかば
第一話・脱サラして魔王になりました
長年続けた仕事を辞めた。仕事は好きだったのだが、いかんせん上司にとてもついていけなくなった。先の事はまだ考えられていないが、どうせあの会社に残っていては、将来も何もあったものではないだろう。
疲れ果てていた俺は、貯金と退職手当を使い、少しの間休息をとることにした。
世間様が働いている時間帯に貪る、趣味に没頭する時間。なんという天国。これからしばらくは、戦略モノ、街作り、村作りといったSLGや動画サイト、観れずに溜めていた動画や映画を堪能するぞ!
朝からニコニコとチューハイの缶を空け、乾き物を用意し、じっくり腰を据えるつもりで椅子に座った途端、目の前の風景が一変した。
何が起こった? なんだここは?
椅子が硬い。周囲の壁が石造りで冷たい。
考える間もなく、妙な二人組に拘束された。ひとりは真っ黒な甲冑に身を包み、また、ひとりは修道女みたいな衣装を来ていた。コスプレ?
「声を出すな。声を出したら殺す」
「まずはこれを被っておけ。何も言わずにこの椅子に座ってろ。もう一度言うが、今からしばらく何も喋るな」
「いいな、何があってもだ」
無理やりフルフェイスのヘルメットみたいなものを被せられ、布で身体を隠された。なにが起こっているのか、まったく理解が追い付かない。
「御免、魔王陛下はおわしまするか!」
突然、扉が開かれ、数名が俺の前にやってきた。その姿を見て、心臓が停まるほど驚いた。物語やアニメ、ゲームで見たことがある。むしろフィクションの中でしか見ない「亜人」というものだった。
「これは陛下。突然のご無礼、ご容赦いただきたい。ですが、我々の村の件。あのご沙汰からしばらく経ちまするが、その後、何も音沙汰がないのは何故か、お答え願いたく」
先頭のオークが俺の前にひざまずく。が、その顔は穏やかじゃない。
真っ黒な甲冑が答える。
「陛下は、お前たちの村を劇的に改善すべく、未だ思案中である。貴様らが急ぐのは理解できるが、我々幹部も考えているゆえ、もうしばし待っていただきたい」
その上で、「申し訳ない」と頭を下げる。これには亜人たちも何も言えなくなってしまったようだ。
「了解した。しかし、急いでいただけるとありがたい。ではこれにて失礼いたす」
そして部屋には、俺と黒い鎧と修道女の三人になった。俺は今までの光景が到底現実とは信じられず、完全に固まっていた。
「えっへん」
修道女がわざとらしい咳払いをしたおかげで、我に返った。そうなると、今度はたくさんの疑問が押し寄せてきた。
「あの、ここはどこで、あなた達はなんなんですか? これは夢なんですか? 俺はこれからどうなるんですか?」
「すまぬ。落ち着いてくれ。突然連れてこられて混乱するのはわかる。私は魔王国騎士団長、黒騎士のアロニア。こちらが魔術師団長のパフィオだ」
修道女が頭を下げる。黒騎士は続けて言った。
「しかし、驚いたな。『魔王様に似ている者』と条件付けて、召喚魔法を発動させたはずなのだが。あんまり似ていないし、しかも人間だとは」
「そんなこと言われても」
「結論から言うと、ここは君のいた世界ではない。異世界、平行世界、パラレルワールド…そういったところだ」
「さきほど押しかけてきていたのは?」
「彼らは近くの村の村長、オークに、村人であるゴブリンやコボルトたちだ。彼らには開拓からいてもらっているのだが、少し問題が出てきてな」
「はあ、なるほど。…それで、なぜ俺はここにいるんですか?」
「落ち着いて聞いてほしい。君は、我々に召喚されたのだ。突如失踪してしまった魔王様の代理として」
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