第5話 読み直して、考えて

 私は今日はいつもと違って一人で下校することになった、普段は昼間にご飯を食べる凛花と真穂と大体一緒に帰っている。


 学校の校門の前の坂道の桜の木にはすでに若葉が芽吹始めていて、散った桜の花弁が用水路の側溝にはらはらと落ちていく。

 今日の告白の返事を明日に回したとして、果たして私は良い答えを薄本さんに返せるんだろうか。


 歩道は一人の私と前方に私とは制服の違う別の学校の女子高生が二人歩いているだけで、あとは車道をバイクや車が夕焼けをボンネットに乗せて走っている。いつもより人通りの少ないそんな道。

 ふと前を見ると信号機が赤になっていて、すでに私の手前の女子高生は信号が青に変わるのを待っている。


(あの子達みたいな女の子を見てるだけじゃダメなのかな…?)

薄本さんが私を選ぶ理由ってなんだろう。そんなことを思いながら足を進める。

 

 その瞬間私は目を疑った。

二人がじっととろけるように見つめ合うと思ったら、次の瞬きの瞬間には二人の顔が重なっていた。思わず足が止まり、心臓がドクドクと高鳴り、耳の毛細血管まで血を巡らす。


(—今、まさかあの子達キスした?)


 そして今、私は二人の密な空間に私という不純物がいることに気づいてしまった。


(—今この瞬間この世界で一番自由なのはあの子たちなのかもしれない、じゃあ私はなんで男女の恋愛にそこまで固執するんだろう…本当にまともに告白もされたこともない、こんな私で薄本さんは良いのかな)


 女子高生達はそのあとも変わらない素振りで私とは別の道に別れて行った。


              ◇ ◇ ◇


 家に着いた、玄関のドアを開ける。


「ただいま〜」

「純夏〜!」

お母さんが服も含めて全身ビショ濡れになって出迎えた。なにかがおかしい。

「ど、どうしたのお母さん…服ビショ濡れだけど…」

「さっきからうちのお風呂が突然調子悪くて……そうだ、純夏がよければ今日久しぶりに家族全員で銭湯行く?」

「…あ、あの銭湯か〜行ってみたいな、疲れたし、大きいお風呂にゆっくり浸かりたいかも…」

 私の家の近くには古くからある銭湯があって、私が小さい頃はよくお風呂に入りに行ったのだが、ここ最近は存在すら半分ぐらい忘れていたほどで訪れていない。


「文芸部に入部したのにそんなに疲れたの?まぁ…高校生は色々大変よね〜勉強も恋も!」

「……う、勉強…って、うぇ!?」

「何よ〜!まさか純夏、誰か好きな人でもできたの…?」

 

 お母さんのいつもの悪い癖だ、なんでもすぐに恋愛に結びつけたがる。そんなに早く自分の孫が見たいのかな…


 そんなわけでタオルや、洗顔、化粧水などの持ち物の準備を済ませいざ銭湯へ

 ちなみにうちの家族構成は父親、母親、兄、私なのだが兄は都内で一人暮らしを満喫しているため基本家にはいない。


 家から5分ほど歩き銭湯に着いた。春の日暮の生暖かい風が妙に胸をざわつかせている。

 さっとのれんをくぐるとちょっと今は会いたくない人と目が合ってしまった。


—————————————次回「私の好き、あなたの好き」


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