第4話 小説に足りないモノ

 今日も授業が終わり、部活の時間がやってきた。お昼休みの時はなんだかぎこちなくて薄本さんには変に思われちゃったかな。まぁ心配したって人がどう思っているかなんて目に見えてわかるもんじゃないし大丈夫だろう。

部室のドアを開けるとすでに薄本さんが椅子に座って待っていた。


「純夏さん、今日も来てくれてありがと。そういえば小説のプロット読んでくれた?」

「あ、はい、授業中にこっそり…」

「授業中に読むという点は置いておいて…どうだった?」

「どうだったって…ちょっと言語化が難しいですけど……言っていいですか?」

「いいよ!むしろどんどん言ってほしい!」


 薄本さんの目は私が見た中で今が一番輝いていた。それほど薄本さんにとっては渾身の自信作なのかな?


「まず、今回は学園を舞台にした百合小説ですが私個人の感想ですがプロットの中に思ったより学園要素がないというか、私的には図書館とかでイチャイチャするとか…体育の授業中に倒れた主人公を恋愛対象の女の子に助けられるとか…正直そういうのが見たいです!!」


 気づいたら私は自分の好きなシチュエーションについて熱烈に語っていた。大体恋愛小説の受け売りだけど…でも私が薄本さんの方を見ると薄本さんはしっかりメモを取っていた。


「うーん……純夏さん、ちょっと提案があるんだけどいいかな?」

「別にいいですけど…」


薄本さんは少し間を置いてから口を開く。


「私の恋愛に対する経験値を増やしてくれない?」


「え???どういうことですか…?」


「んーと…つまり……私と付き合ってくれない?」

「えぇ!?」


 今まで私が思ってきた、見てきた誰かと付き合うってイベントはもっと煌びやかでロマンチックなものだと思っていたけど、リアルはこんなにあっさりとムードもなく告白されるとは予想外というか一つしかないものを失った感じで勿体無い感じがした。


「どう…?だめかな?」


「ごめんなさい、少しだけ考える時間をください…今日は私帰ります」


「あ…純夏さん……」


 何か言いかけた薄本さんを置いて私は部室を出ていった。

私は女の子同士の恋愛なんて知らないし、いまいち心の整理がつかない。


 本当に私で薄本さんの経験値は増えるんだろうか。そんな思いを家に持ち帰ることにした。


—————————————次回「読み直して、考えて。」


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